日本の就職構造にもっとも不足しているのは、働き方を選ぶ自由であり、それがもう何年も続いている重い閉塞感(へいそくかん)の大きな原因となっているように思う。
もっと自由に、自分が働きたいと思う職場に移り、自分に合う仕事をしたいようにできるようになれば、人生は何倍か楽しくなり、人々はいきいきとしてくるだろう。
イメージで言えば、さまざまな大きさと形の穴を持つ篩(ふるい)に、さまざまな大きさと形の石を入れ、ガラガラと振っているうち、穴に合った石がその場所におさまっていくような感じである。石が成長し穴におさまらなくなればとび出して、ガラガラ振られながら自分に合うところに落ち着いていく。自分に合わないところでじっと我慢し、自我をひからびさせてしまう人生より、どれほど幸せかわからない。
そういう社会にするための条件を考えてみよう。
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第一に、転職が本人に不利にならない仕組みにしなければならない。たとえば、退職金のように長期継続就労が有利になる仕組みは廃止し、実績主義あるいは能力主義による年俸制にするなどである。
第二に、採用、昇進その他の人事処遇も、能力主義によることが必要である。年齢、性別、国籍などによる差別は、完全に廃止する。企業は、その社会的責任において、適正な採用を実現しなければならない。以下に述べるような社会的条件が整えば、適正な採用は当然に、そして容易にできることとなる。
第三に、それぞれの人の持つ能力を証明する社会的な仕組みをつくることが望ましい。
現在存する能力証明の仕組みは資格制度であるが、大多数の職種は資格に関係がないし、多くの資格制度はキメが荒すぎる。しかし、働くことを含む社会活動をしている人はすべて、日々その能力を実際に表現しているのだから、これをおおまかながらも客観的に評価することは可能であろう。労働を所轄する行政機関の主導で研究を進め、その実用化は民間に委ねてはどうか。
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第四に、企業別労組だけでなく、職種別労組が必要となる。それだけでなく、就業希望者(失業者、NPO活動・ボランティア活動・学習・子育て・介護などを行いながらいずれ就業する希望の人、学生など)についても、横型の労働組合がほしい。そして、公共職業安定所(ハローワーク)や資格証明会社、企業別労組とも連携して、その人の能力がよりよく生かされるような就業ができるよう、企業その他と折衝する。それは、人材の社会的活用にきわめて有益な活動であろう。
第五に、そのような仕組みができても、かなりの人は同じ企業で働き続けると思われるので、そういう人も不利にならない仕組みにしておく必要がある。転職が不利にならない仕組みと整合性を保たなければならないが、難しいことではない。
第六に、特に就職後の三年間について、企業は研修等を通じて本人の適性の発見につとめ、自社に適合しない人材については、適する職種、職場などの情報を提供するなど、適材適所を社会的規模で実現する仕組みをつくってほしい。この就職難の時代に、就業者の三割以上が三年内に離職し、かなりがフリーターとなっているのは、大きな社会問題だと考える。
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