政治・経済・社会
(財)さわやか福祉財団ホームページへ
 
つれづれタイム
更新日:2006年6月22日
夏バテを乗り切るには

昔は、ビール

  夏バテには、ビール。平凡だけど、渇き切ったのどをクーッと通って全身にしみていく時のあの感動に、かわるものはない。
  昔はクーラーもなく、夏はどこにいても暑かったから、一日の終わりにグッと飲むビールは、常に最高だった。「この仕事を終えたらビール」と、仕事をしながらも「ビール」という、色付き、泡付きの文字が、頭の中、身体の中を巡回していた。それをめざして、じっとりと汗をかきながら暑さを忘れ、夢中で仕事に取り組んだ。
  夕暮れ時になると、ものほしそうな顔をした仲間が部屋をのぞきに来る。若くても検事は個室を与えられており、昼間は用のある奴しか来ないから、何となくこちらをうかがうように仲間が顔を出すと、「えっ、もうそんな時間か。さて、どうするか」と、一応は仕事第一主義を守って自分に聞いてみる。しかし、かっこをつけてもムダで、答は身体が出している。体内をひそかにめぐっていたビールのイメージが、仲間の姿を認めた途端、爆音を立てながら吹き上がり、いたたまれない。そそくさと立ち上がって、仲間と出かける。廊下を歩きながら、好きな連中のドアを叩くだけで、たちまち何人かのグループとなる。憑かれたような眼の男どもが、群がって検察庁をとび出し、行きつけの定食屋へ無言で急ぐ姿は、端から見れば釈放されたヤクザの群れに見えたかも知れない。
  昔は、夏が暑かった。しかし、仕事とビールがあれば、夏バテはなかった。
  今は、部屋で仕事をしていれば、暑くはない。だから、ビールも、昔のような、もうたまらないという感動をもたらしてはくれない。残念な気もするが、ビールの感動を得るために昔に戻せとは言わない。
  あとは、仕事がある。儲かる仕事ではないが、自分でやらなきゃならないと決めている仕事が山ほどあって、勝手に熱中している。だから、夏バテを知らない。

(「日経おとなのOFF」ワンテーマ・エッセイ/2006年7月号掲載)
バックナンバー   一覧へ
 [日付は更新日]
2006年4月25日 「法廷絵師は見た!」(書評)(大橋伸一著 KKベストセラーズ)
2006年3月15日 郷愁のかなたのリアリティ−『マルタの鷹』
2006年3月15日 酒で世の中の生き方を学ぶ
2005年9月29日 愛・地球博にて
  このページの先頭へ
堀田ドットネット サイトマップ トップページへ