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定期連載
更新日:2005年10月6日
「公益事業」は非課税に

 六月、政府の税制調査会から、新しい一般非営利法人や公益法人に関する税制についての提言がなされた。政府税調は最近、非情な存在だと思われているが、新公益法人については、ひとつ、いい提言をしている。新しい制度で公益性が認められた法人に対し寄付した場合、その全額を課税所得から控除しようというのである。
 現在は、そういう優遇措置が認められる公益法人は、約二万六千のうちの約九百にすぎないから、たいていの公益法人は、その活動支援のために寄付しても、所得控除はできない。「寄付も、税金と同じく社会のために出すものなのに、その分についても税を取るのか」と、寄付する者にとっては納得できない制度になっていた。それを、すべての新公益法人に対する寄付について優遇措置を認めるとするのは、税調の快挙である。

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 しかし、よいのは寄付の奨励策だけで、一般非営利法人や新公益法人に対する法人税の課税については、ほめられない。
 一般非営利法人に対しても、原則として法人税を課税するとしたのは、これまで「非営利事業については、その剰余金を出資者などに分配しない限り、課税しない」としてきた、法人税課税の基本原則をくつがえすものである。国民や学者の声を広く聞いて、はたして原則を大逆転して大丈夫なのか、慎重な検討が行われるべきである。
 新公益法人について、その本来事業であっても収益事業として行われる時は課税するとしている点は、最大の問題である。実は現行法も同じように本来事業課税の仕組みになっているのであるが、今回の大改革の機会に、本来事業は非課税に改めるべきである。
 たとえば、現行法でも、学校法人や社会福祉法人などは、税法上さまざまな例外規定を置いて、本来事業は課税されないようにしている。それは正しい措置であって、学校に納める授業料や、社会福祉法人に納める利用料などについて、課税収入だとされたら、納得できないであろう。
 学校や福祉施設などは税金を投入してでも運営すべき、公益性のあるものであるから、その受益者が授業料、利用料などの名目で運営資金の一部を負担したとしても、それを営利企業の売上金などと同様に扱って、課税されるべき収入とするのは、不相当である。そこまではよいのであるが、現行法では、公益法人一般については、本来の公益事業による収入であっても課税するというルールにしている。

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 アメリカやイギリスは本来事業非課税を貫いている。日本も戦前はもっと幅広く非課税にしていたのを、戦後のどさくさの中でしっかり詰めないまま、本来の公益事業にまで課税することにしてしまった。ここは、本来の公益事業ではなく、これを支えるために利潤を得ることを目的として行う、公益性のない収益事業についてだけ課税するという制度に、明確に整理すべきである。
 本来の公益事業の受益者に応分の負担をしてもらうことは、自立のため好ましいことであるし、それが事業資金の足しにもなる。そういう負担金収入にまで課税するのでは、せっかくの寄付金優遇措置が、お化粧程度の効果に終わってしまい、血色をよくするどころまでいかないであろう。

(信濃毎日新聞掲載/2005年7月18日)
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