政治・経済・社会
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定期連載 辛口時評
更新日:2005年9月16日
日本はAUを目指せ
 中国は何年にもわたり、年率9%、10%という驚異的な成長を続けている。それは世界に明暗さまざまな影響を及ぼすが、基本的にはよいことであろう。急成長の原因を端的にいえぱ、中国の人件費が安いことであり、だから世界の資本と、技術が中国に集まって、その工業化を進めている。
その結果、やがて中国の人件費は上昇していく。
 つまり、中国人は物質的に豊かになる。そうなると、資本や技術はある程度の知的素地と勤勉さがあって人件費の安い国へ移動していく。このようにして、何十年か先には、経済は、世界各国の生活レベルを一定水準以上にそろえるであろう。
 その途中では各国間に、多様な摩擦が発生するであろうが、それはお互いの人類愛、地球愛で乗り越えるほかない。大切なのは、私たちを含め、地球上のすべての人が幸せに暮らすことである。
 目先の現象だけにとらわれた偏狭な愛国心(その実体は、いわれなき優越感といわれなき軽蔑(けいべつ)心であろう)は、お互いの国民の心理を無用に荒立て、双方に不幸をもたらす。
 さて、問題は、中国の経済が日本並みに発展した時、日中関係がどうなるかである。中国は人口も国土も日本の何層倍であるから、その段階では、経済力、軍事力、他国への影響力などを総合した国力も、日本の何層倍になるに違いない。
 そうなると、現在は日本を含む世界の多くの国が、アメリカの意向をひときわ重要視しているように、今度は中国を特別重要視せざるを得ないようになるのであろうか。
 もし現在のように、世界の外交のすべてが国を単位として行われる状況が続いていれは、そうならざるを得ないであろう。しかし、それは好ましくないことである。
 国力で負けている方の国民の尊厳が傷つけられるのみならず、世界中の市民にとって、その生まれた国(これは、自分で選べない)によって他国の意向を通す度合い(自分たちの意見の通る度合い)が異なるというのは、いわれなき差別である。
差別は人間関係を損なうから、それがある限り、人類すべての幸せという理想は実現しない。米国にせよ日本にせよ中国にせよ、世界のどの国も、自国の政策を力で他国に押しつけてはならない。
 幸い、EU(欧州連合)という先進モデルがある。簡単なことではないが、EUでは、民主主義、自由主義、個人主義、資本主義、平和主義という共通の価値観に立つ国々が、お互いの間で国境の壁を撤収しつつある。いずれはEU市民というアイデンティティーが自然に生まれ、育っていくであろう。
 そうなれば、国力という要素は相互の間で消滅し、当然にいわれない差別や対立、摩擦などはなくなる。
 アジアで日本が目指すべき道は、AU(アジアン・ユニオン)しかないと考える。「みんな仲間だ、経済交流を強め、人々が交流し、助け合うアジアをつくろうよ」という呼びかけを、官レベルでも民レベルでも強力に行い、前を向いていい関係をつくっていきたい。
(神奈川新聞掲載/2005年5月9日)
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