私たちは「基金21」と呼んでいるが、役所のつけた名前だから、正式名称は、長ったらしい。「神奈川県ボランタリー活動推進基金」という。
神奈川県が、年間一億円ほどのお金を出して、民間非営利団体(NPO)などの公益活動を応援しようというプログラムで、四年前に発足した。目玉は「協働事業」で、これは、県がNPOにお金を出すだけでなく、事業も県とNPOが協力し合って行うというものである。初年度には、引きこもり青少年を支援する「楠の木学園」、里山を生かそうという「よこはま里山研究所」、珍しいカニの保存を通じて森や海の環境を守ろうという「小網代野外活動調整会議」、しいたげられる女性を保護する「女性の家サーラー」が選ばれた。どの事業も、NPOやボランティア団体の力だけでは行うのが難しく、といって県の力だけでも行えず、両方が協力する必要のあるものだとおわかり頂けるであろう。
私は、前の岡崎知事に頼まれ、一期四年間、基金21審査会の座長をつとめた。全国のモデルとなる新しい仕組みをつくり出せたのは、優秀な関係者のたまものである。
もっとも難しかったのは、公益の優劣順位という問題であった。
たとえば、あなたが知事だとして、次の活動にどの順序で補助金を出しますか。
(1)地域の犯罪防止活動
(2)精神障害者の就労支援活動
(3)川崎の海の海苔つけ体験教室
(4)新作能をつくる活動
(5)在神奈川外国人に対する母国文化教育
こういう公益の優先順位の問題には、国も地方自治体も、その成立当初から直面してきているのであるが、不思議なことに、この問題を学問的にどう考えればいいかという理論はまったく確立されていない。順位付けは予算を編成する官僚のさじ加減に任されてきたわけで、だから、そこへつけ入って利権をむさぼる政治家も現れたのである。
予算編成をその当初から国民、住民に公開して行おうという新しい動きは、予算への不当介入を防ぐ意味でも画期的なものであるが、基金21は、予算全体からすればほんの一部とはいえ、公開の場で候補事業のプレゼンテーションをし、民間委員の議論によって公金の支出先を決め、その理由を公表しているのであって、まさに先駆的であったといえよう。
それにしても、順位を付けるのは難しく、純粋に神奈川県民の立場に立って考えても迷いっぱなしであったが、私には、委員の一人である石井邦夫さん(現・神奈川新聞社営業局営業戦略室長)が言われた言葉が忘れられない。
「私たちが神奈川県民のための市民活動という視点から順位を付けて選んだのだから、県は行政の立場から異論があるとしても、われわれの見解に従うべきですよ」
確かに、公益の優先順位について判断のすべてを行政に委ねるのは、決定要素がないだけに危険であろう。
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