名刺の名前まで「でかい面(つら)」をしているのは、たいてい、議員さんの名刺である。
いつかもそういう名刺をもらって、肩書きを見ると、案の定、東京都議会議員。よく見ると、肩書の上にごく小さな字で、「元」とある。
「元の肩書で名刺をつくるか?」と思ったが、肩書なしの名刺では社会に出て行けないのであろう。
それほどに日本社会では、肩書付きの名刺は必需品である。特に、男性サラリーマンは、そうである。
私がなじんできたのは公務員の名刺であるが、これは素っ気ない。縦に長々しい役所の官職名と、取りすました字の名前。そして、自宅の住所は書いていないものが多い。
「私的なおつきあいはしませんよ。私は、こういうえらい官職の人ですから」と、隙もなければ味もない。
大企業の名刺もこれに似た「面がまえ」をしているが、ロゴマークが入っているのが誇らし気である。
一方、ベンチャー企業の名刺はにぎやか。商品の宣伝が入っていたり、会社の標語が入っていたりして、いきいきと仕事をしているのがわかる。ただ、名刺の主、個人の人間性まではわからない。
ところが、それがわかる名刺もある。
ある時貰った労組幹部の名刺の裏に、動物ボランティアとあった。
「何をされてるんですか?」と聞くと、「休日には動物園に行って、子どもたちに動物の話をしている、特にゴリラが好き」との返事。これには驚いた。「この人とゴリラ!」わかったような気がしていっきにその人が好きになった。
「これだ!」と思い付いて、名刺の裏に、やっているボランティア活動、地域活動、趣味の活動を書く運動を始めた。
なにしろ20年間、ボランティアを広める運動をやってきたが、現役サラリーマンだけは難攻不落なのである。
上(会社)から攻めても、横(奥さん方)から攻めても、下(地域)から攻めても、落ちない。ワークライフバランスは、政官財労と4者総がかりの運動であったが、それでも落ちず、最近は不景気風に消えなんばかりの気配。
そこで、正面から攻めるより、名刺の裏にそれらの活動を印刷する文化をつくり出そうと始めたのが「名刺両面大作戦」。わがさわやか福祉財団の有志職員とともに、10年6月1日から11年9月30日まで、山手線ひとまわりの辻立ちまでした。月曜から金曜まで、朝7時45分から1時間、雪の朝も、日照りの朝も、ひたすらに名刺両面大作戦。
なんと、最初に応じてくれた方が、内閣府参事官という政府高官。名刺の裏に「病児保育・病後時保育のNPOフローレンス サポート隊員」ほか2つ。
「ええっ、この賢そうな顔の美人官僚が、こういう活動もしておられる!」と、いっきょに親愛の情が湧き起こる。そして、官僚全体、とまではいかなくても、女性官僚への人間的信頼が高まる。
そういう名刺の効果を知る会社(たとえば富士ゼロックス北海道株式会社、株式会社高齢社など)は、会社をあげて取り組み、今は全社員が、何がしか裏面に書いておられるとか。
そういう会社は、社員の士気が高く、業績も信用もぐっと上向きである。名刺の裏は、あなどれない。
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