福祉の現場に立つ人は、医師、看護師、あるいは弁護士、教師などと同じく、人を直接の対象とするのであるから、基本的資質として、まず人が好きでなければならない。そして、相手の気持ちや考え方などを理解する能力や感性を持ち、相手の精神状態を積極的な方向に向けていく技術を身に付ける必要がある。特に、福祉の人材は、相手の生活に寄り添い、これを支えるのであるから、そういう資質や能力が求められる。これを、人間性と呼ぶことにする。
では、その人間性をどう育成するのか。
これが難問である。学校教育は、教育基本法第一条に定める教育の基本的目標を忘れ、知識教育に走ってきたために、人間性を伸ばす教育のノウハウを持っていない。親も同じく持っていないから、人を直接の対象とする職業に必要とされる人間性を欠く人物がけっこう入ってくる。そういう人物に限って試験を突破する知識を蓄えていることが少なくないし、それに、試験では人間性のテストは行わないからである。そういう人物が、対象を人間扱いしていないために過誤を起こしている。医療過誤も司法の過誤も、知識や技術の欠如の前に、相手を人間として見る姿勢の欠如が根本的原因として存在することが多いのである。
そして人間性は、かなりの部分が成人に達する前に形成され、成長した後に欠けたるところを伸ばすことは、足りない知識を補うのと違って、相当難しい。とすると、必要とされる人間的資質を基本的に欠く人物は、いかに知識科目の成績がよくても、福祉や医療の現場には受け入れない措置を講じる必要がある。機械相手の仕事や研究部門などで頑張ってもらうのが本人のためであり、社会のためである。
ある程度の資質があれば、これを伸ばすのは現場における体験教育である。座学は、体験を自らの頭で整理する時にのみ有用である。現場には赤ひげ医師も、心温かいと引っ張りだこのヘルパーもいる。そういった現場の先輩の熱い心に触れさせ、感動させ、「ぼくも(私も)そうなろう」と心に誓わせてはじめて、人間性が伸び始める。そういう現場教育の場をそろえることが、福祉の質の向上に直結する方向であると思う。
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