福祉のあり方としては利用者本位、医療のあり方としては患者本位という考え方が言われている。それは大切なことだと思う。
しかし、世の中には、無数の利用者がいるし、無数の患者がいる。そして、それぞれに置かれた状況も考え方も感じ方も違う。
そのすべての要求を全部きいていたのでは、福祉職の人が何人いても足りないし、医師や看護師も今の何十倍もの数が必要となるであろう。では、利用者本位、患者本位のやり方を諦(あきら)めるのか。
そうではない。ここは、利用者、患者の立場に立って考えなければならない。
利用者の要求、患者の要求には、人間として、また、利用者、患者として、当然の要求がある。ゆっくりおいしいものを食べたい、我慢せず、プライバシーの守られるところで排泄(はいせつ)したい、安眠したい、身体を清潔に保ちたいなどの生理的欲求は人間として基本の欲求であるし、身体を動かしたい、早く病気を治したい、自分の状態がどうなのか、先の見通しはどうか、自分が何を心掛ければよいかを知りたいというのは、利用者、患者として当然の要求である。これら当然の要求は、100%満たすよう努める。それが利用者、患者本位ということであろう。
それを実現する手段が、利用者、患者の選択権である。実際問題として、利用者や患者が福祉事業者や医師を選択するのは簡単ではないが、それでも選択権があるということが最後の砦(とりで)となる。
一方、利用者や患者には、わがままのかたまりのような人も少なくない。治療上有害なものを摂取する、夜中に騒ぐ、寂しいからとナースを独占しようとする、などなど。状況の認知ができなくて本能的に迷惑行為をする人には、その原因除去に努め、人間的に扱うことで収める対応方法が開発されつつあるが、意識的に度を超した行為をする人には、きちんと制止することが必要である。いっとき利用者や患者は不満を持つであろうが、状況に適切に対応させるよう導くことが、結局、利用者、患者自身のためになるからである。守るべきルールを最小限にするとともに、必要なルールは納得するまで説明して守らせるのが、利用者、患者本位ということであろう。
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