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提言 福祉・NPO・ボランティア
更新日:2019年10月16日
助け合いへ動きつながる市民

 「これはもう社会運動の始まりです」と評論家の樋口恵子さんに褒めていただいた。去る9月、大阪で開いた「いきがい・助け合いサミット」に、全国から3千人の助け合い活動仕掛人たちが集まったのである。

 わがさわやか福祉財団のような小さな一民間公益財団法人が助成金など一切もらわないで、大それたサミットを開いたのにはわけがある。

 ことの起こりは税と社会保障の一体改革で、社会保障費の節減を迫られた厚生労働省は、介護保険料の伸びを抑えるため要支援者などに対する生活支援のサービスをなるべく住民同士の助け合いで行う仕組みをつくった。各自治体は助け合い活動を広める生活支援コーディネーター(SC)などを任命したが、SCも行政もどう広めればよいかわからず、全国各地で戸惑っている。無理もない、これまで行政はそんなことをしたことがないのである。といって行政が助け合いを広めるサミットを主催したのでは、住民がうさんくさく思う。助け合いは住民が主体的に行うものだからである。

 そこで助け合いを広める活動を28年間全国で展開してきたわが財団が一大勉強会を催し、2日間で54の分科会を開いてSCたちが各地で当面している課題に取り組んだのである。

 SCたちはそれぞれに孤独な作業を暗中模索で行っていたが「サミットに参加して目が開けた。取り組む意欲が出た。今後も相談できる頼もしい仲間ができ、ワクワクしている」などと感謝の声を寄せてくれた。この仕組みがスタートして4年を過ぎ、孤独な仕掛人たちが全国の仲間たちとつながり始めたといえよう。

■全国の各地に

 基本に立ち返っていえば、国が財政逼迫や人手不足に対応するため住民の助け合い活動を起こそうというのは、発展途上国のようなやり方で、私たちボランティア団体の間では反発する声も結構あった。しかし、わが財団は、助け合い活動を行っている14の全国団体と相談し、「結局、財政逼迫も人手不足も国民に負担が来るのだから、助け合いで何とかできる部分については協力して助け合いを広めよう」という決意をした。「ただし、行政に仕切られるのではなく、われわれ市民、住民があくまで自主的、自律的に助け合うこと」という当然の条件付きであった。

 4年ほどを経て驚いたのは「よしやろう」と応じて自発的に動きだす住民が、思いのほか全国各地にいるということである。

 私もたとえば昨年は23回、全国各地のフォーラムに赴き、その地のSCらと共に住民の方々に「生活に困っている人々の家事や外出を有償ボランティアで継続して支えよう」と訴えたのであるが、山間部か中小都市かを問わず、何百人というフォーラム参加者の3、4割、多いところでは8、9割の人が「呼びかけがあれば有償ボランティアに参加する」と答える。そして、その後に開く勉強会に参加し、1年度には有償ボランティア団体が立ち上がっている。これも予想外だったのは、全国で立ち上がっている有償ボランティア団体のうち相当数が「補助金は要らない。お金は自分たちで何とかする」と自立精神がきわめて旺盛なことである。

■4つの努力を

 思い起こすと、現在の状況は1990年代前半に似ている。その頃私は、高齢者の生活を支える有償ボランティアを広めようと全国に働きかけたのであるが、たちまち400団体ほどが集まった。高齢化が目立ち始めたのに介護保険制度の姿も見えず、国民の間に老後の生活や介護に対する不安が色濃く広がりつつあった時期である。

 介護保険制度ができて、その不安は相当程度解消され、生活支援の有償ボランティアは勢いを失ったが、最近になって90年代前半を超える勢いである。それは人材難と財政難で老後の生活支援の維持が困難だということを、かなりの国民が感じ始めたからなのであろう。

 この勢いをさらに伸ばすためには、(日)行政や政治は、老後の保障が非常に厳しいという現実を率直に語ること(月)自治体は、SCなどによる助け合い活動の創出支援を地域づくりとして全庁態勢で応援すること(火)SCなどは住民の自主性を損なわない支援方法を学び、実践すること(水)助け合い活動団体は住民に助け合い活動の楽しさを極力伝えることーという四つの努力が必要であろう。

(信濃毎日新聞「多思彩々」2019.10.13掲載)
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