私の周辺にもオレオレ詐欺の電話が来たという人が出現して、結構興奮を巻き起こしている。
「いやぁ、すぐおかしいと気付いたんですよ。だから何とか話を引き延ばして正体をつかんでやろうと思いましてね」
「で、どうしたのですか?」
「だから聞いてやったんですよ。『オレには孫が二十人ほどいるから、君がどの孫かよく分からないんだよ。君は何という名前の孫だっけ?』って」
「そしたら?」
「ガチャンですよ」
「そうでしょうねぇ。普通、自分の孫に対して、オレには孫が何人いる、なんてことはことわりませんからね」
「そう言われればそうですね。相手が口座番号を言うまで、私はがまんして、騙されているべきでした」と反省している。
ワタシワタシ詐欺というのも出てきた。
「お父さん、ワタシ」と言う。娘そっくりの声だったというが、あてにならない。平素、娘と電話で話すようなタイプの男ではないからだ。
「お父さん、ワタシ、二百万円貸した相手がどうしても返してくれないの。主人にバレたら叱られるから、何とかして」と女詐欺師が泣き声を出す。
すっかり騙されているわが知り合いは、思わずカッとした。
「お父さんは、そんないい加減な娘にお前を育てた覚えはない。だいたい、どんな奴に、何と言われてそんな大金を貸したんだ。相手がどれだけ信用できる人か、そこの判断が甘すぎるだろう。だいたいお前は、平素から、そういういい加減な人と付き合っているのか」
説教は、延々と続く。相手は無言。とどのつまり、
「だいたい、自分のしでかした不始末だ。自分でしたことは、自分で責任を取りなさい」
怒鳴ったところで、ガチャリと電話が切れた。頭にきて、説教を続けるべく、娘に電話をかけたら、
「何言ってるの。私、そんな電話してないわよ」
ここで、やっとワタシワタシ詐欺に合いかけたことに気がついて、ガクゼンとしていると、
「それにしてもお父さんて、私の声は忘れているし、そんなに困っていると言って頼んでるのに聞いてくれないなんて、冷たいのね」と娘に言われて、しょげ返ってしまった。
その心の被害の方が大きい様子であるのだが、果たして彼は冷たい男であろうか。
声を聞き間違えたのは感心しないし、説教は高飛車すぎるが、しっかり自己責任の重要性を説いたのは見事である、と私は思った。冷たいのであろうか。
それにしても、説教を聞かされた女詐欺師、少しは正しい生き方に目覚めてくれればいいと思うが、まぁ、無理だろうなぁ。
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