政治・経済・社会
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提言 生き方・その他
更新日:2005年9月16日
「人生の四季」 カネは天下の回りもの(5)
通貨が潜在能力を掘り起こす

 みなさんは、社会のために役立つことをする能力を、どれくらいお持ちでしょうか。
 地域通貨について話す時、この質問を発すると、一瞬会場はシーンとなる。
 「人は、社会に役立つ能力を二百くらいは持っています。二十くらいはたちどころに出てくるはずですから手帖に書いてみませんか」
 まだ、戸惑いの気配が漂う。
 「まず、留守番なら誰でもできるでしょう」
 ここでホッとしたような笑い声が起きる。
 留守番、買い物代行、子供の送り迎え、役所への申請代行、庭の草取り、お掃除、と並べていくと、このあたりで首をかしげる男性が出てくる。掃除も洗濯もしたことがなく、できないと思い込んでいる男性がそこそこいるのである。
 目先を変えて、お年寄りへのパソコン教授、授業についていけない子供たちへの算数、国語、英語、社会の個人教授、趣味のギター、日本文学、海外事情の教授――とこのあたりはウンウンとうなずく人が多い。
 そこで「授業についていけず不登校に傾く子を救うには、自分の不得意科目を教えるのがいいのです。できる科目はつい相手をなじりがちになる。自分のできない科目だと相手も安心して自信を取り戻しやすい」と追い打ちをかけると、半分は苦笑しながらも肯定のしぐさを見せてくれる。
 要するに言いたいことは、「経済社会、お金の世界では生かされなくても、助け合いの社会、ハートの世界では生かされる能力を、人は何十も持っている。それを生かさないまま人生を終えたのでは、人も社会も丸損ではありませんか」ということである。
 近隣社会が経済競争のため壊されてしまった今日、助け合いを復活し、経済社会で生かされる能力の何十倍にもなる潜在能力を社会に引き出してこれを生かす仕組みの一つが、地域通貨である。
 一例を紹介すると、近隣の何名あるいは何十名で好きな名前の通貨を発行する。単位も例えば三十分券と一時間券というように好きに決めればよい。そしてそれぞれが人のために自分でできることを登録する。
 例えば、「第一、第三土曜日午後、十二歳以下の小年少女及び六十歳以上の初心者に囲碁指導。水曜日夜、ひとり暮らし女性の食事のお相手」など。家の修理、中南米旅行案内、うつ病対応、ボランティアのこつ伝授、モーニングコール引き受けなど世の中にはいろいろなことができる人がいる。登録表を見て地域通貨を使えば、いろんなことがしてもらえて、生活内容は格段に充実する。もちろん自分の能力も生かされるから生き生きとしてくる。
 いまひとつマネーに力が戻ってこない今年、私たちだけで活気をつくり出せるもう一つのマネー、地域通貨を発行しませんか。

(日本経済新聞掲載/2004年1月4日)
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