政治・経済・社会
(財)さわやか福祉財団ホームページへ
 
提言 生き方・その他
更新日:2005年9月16日
「人生の四季」 カネは天下の回りもの(9)
賄賂は経済のバロメーター

 昔、メキシコをレンタカーで旅してまわっていた時、うっかり右折禁止違反をやって取締りの警官に止められた。「罰金を払わなくてはならない」という。
 「どこで払えばよいか」と聞くと、中年の警察官がスペインなまりの英語で何やら言い出した。どうも「オレはたくさんの家族を抱えていて、警察官の給料でやっていくのは大変なんだ」というようなことらしい。
 白昼、繁華街の交差点で止められて、早く解放されたいという欲求と他国とはいえ贈賄はいけないという良心とが闘ったが、理性が「日本の刑法は外国での贈収賄を処罰できないよ」と囁いたので、たちまち良心は欲求に敗れ去った。
 警官が「罰金は五ドルだ」というので、渡そうとすると「ノ、ノ、ノ、ノ」と彼はあわてて制止。開いている窓から手を車内にたらし、その人差指と中指の間に紙幣を挟めという。賄賂の渡し方まで指示するのかとあきれて警官を見たら、申し訳なさそうな顔をしていたので言われるままに渡した。彼はアッという間に紙幣を手の中に丸め込み「交通取締りの警察官には気を付けろよ」と身に染みる忠告を残して立ち去った。
 ある南米の国を訪ねた友人は、「裁判まで賄賂で買収できるんだよ」と目を丸くして教えてくれたが、そうなれば、市民はもはや救われるところがない。反政府ゲリラがはびこるのも、救いがないからであろう。
 これも昔、アメリカに勉強に行っていた時、交通反則切符の存在を知って(日本はまだ導入していなかった)、各地のを集めてみたら、ある切符に印刷されている注意書きの一つに、「その場で警察官に罰金を払わないこと」というのがあった。サンフランシスコの雑貨屋のおやじが「警察官が夜見回りに立ち寄った時は、二十ドル渡さなきゃならないんだ」と教えてくれた。「何で監察官に訴えないんだ」と聞いたら、肩をすくめて、「彼らはみんな一緒なんだよ」と答えた。
 その点、日本の警察官はきれいである。恐らく世界一ではなかろうか。マレーシアの公務員が、厳しい制度の下、清潔だと聞くが、日本の公務員も劣らないであろう。もちろん贈収賄事件は発生するが、一般公務員の贈収賄は政治家のそれと違って比較的バレやすいので、かなりのところ摘発されていると思う。賄賂が野放しにされており、見せしめ程度にしか摘発されない国々が多い中で、光っているといってよい。
 国の経済的繁栄の程度は、賄賂の多さと反比例すると感じている。賄賂でことが済むなら、誰もまともな努力はしなくなる。中国政府が賄賂の取締りに力を入れだしたのは、当然である。法律上は賄賂にならなくても、幹部や営業担当が仕入先や融資先から高価な接待や贈答品を受けているような会社は、やがて傾いていくであろう。

(日本経済新聞掲載/2004年2月1日)
バックナンバー一覧へ戻る
  このページの先頭へ
堀田ドットネット サイトマップ トップページへ