金の誘惑に、人はどれだけ耐えられるか。
事業者Aさんが公務員B課長をたらし込んで、有利な扱いを受けようと企てたとする。
まず課の職員で、サラ金から厳しく取り立てられている人物を捜す。そういう職員はギャンブルに目を血走らせ、生活、勤務態度、服装などがどことなく投げやりだから目立つ。こういう腐ったのが見付かれば後は手っ取り早い。借金を何とかしてやるというと飛びついてくるから、この職員を使って目指すB課長に近づいていけばよい。
しかし腐ったリンゴはそう多くはいない。これが見付からない時は正攻法(?)でいく。B課長のところへ行き、「実は事業のことで困っていることがありまして、行政のお立場から見たあるべき姿を教えて頂けないでしょうか」と頼む。「お忙しいのは重々分かっておりますので、勤務時間終了後の三十分でも頂ければ本当に助かるのですが」とあくまで低姿勢。「私どもがいつも使っている部屋がありますので」とレストランの個室に引っ張り出す。
ちょいとした料理が出てくるとB課長はぎょっとする。この代金を自分の小遣いで払うのはつらい。不機嫌になったB課長にすかさず、「ここは私たちのオフィスみたいなもので、代金はまとめて払っております。今晩の分はサービスになってまして」。口からでまかせであるが、Aさんにとってはここが勝負どころ。何としてもB課長の良心の壁に穴を開けねばならない。
何の役にも立たない一般論をもっともらしい顔で聞いて、タクシーで送っていく。「私もあちらの方に住んでおりますし、もっとお話を伺いたいものですから」。聞きたいのは家族関係である。「そうですか。そんなにお出来になるお子さんなら当然東大狙いでしょうが、塾代が大変なんでしょうねぇ」と、金に困っている状況を探り出す。
後はAさんの思うままである。「おかげで事業が少し持ち直しまして」などと小料理屋へ引っ張り出し、そのうち料亭から二次会はバー、クラブ。「いやあ課長、この間課長が横に座らせたウララが、すっかり課長にイカれてしまって、お連れしろとうるさいんですよ。課長、もてるんですねぇ」。もてるわけないのだが、その気になるところが恐ろしい。そのうちB課長はAさん抜きでハル・ウララさんの店に行き、ツケをAさんに回すようになる。額がかさむにつけ、噂が警察の耳にも入り、やがてB課長一巻の終わりとなる。
人間、かなりの抵抗力はあるが、一度穴が開くと転がるように腐っていく。そして必ず回りを腐らせる。そうなると、まともな人間が止めようとしても元に戻らない。今は日本中の組織改革の次期、腐った部分を思い切って切り捨て、再生するまたとないチャンスであろう。
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