今、ヘルパーさんたちの間の隠れたヒットソングは、「ボケない小唄」と「ボケます小唄」である。大昔はやったお座敷小唄の替え歌で、作詞者は仏具店の社長さんだと言われるが、つまびらかでない。聞くたびに歌詞が微妙に違うから、歌い継がれるうちに変わっていっているらしい。
ボケない方の例は「スポーツカラオケ囲碁俳句 仲間と楽しみ いきいきと ボランティアして喜ばれ いきがいある人 ぼけません」。ボケる方の例は「酒も旅行も嫌いです 歌も踊りも大嫌い お金とストレスためる人 ひとの二倍もボケますよ」
お金とストレスを一緒にするなんておかしいじゃないかとの反発がありそうだが、私はお金ストレス説に同感である。
特捜部で扱った事件は汚職と脱税で、登場人物はお金持ちなのだが、その日常生活ぶりを調べていくとお金がたまるほどこれを守るためのストレスがたまっている様子がよく分かる。ある右翼の大物など、近づいて来る人間がすべて自分のお金を狙っているのではないかと警戒して周りの人間をどんどん遠ざけ、実に孤独な生活をしていたし、政商とも言われた企業家は、身内や企業幹部の遊ぶ金まで神経質に管理して、いつもいら立っていた。
ある個人経営者の脱税では、ガス・水道代節約のため風呂は月に一度、あとは水洗いで石鹸は使わず、十年ほども使っている軽石で垢をこすり落とすという超々倹約生活だった。栄養状態の悪い夫婦が脱税を認めた時の、もの悲しく恨めしげな眼が忘れられない。
お金の恐ろしい点は、お金に頼っていると人間が変わってしまうことである。
これはある銀行の会長さんの話であるが、寄る年波で入院した。ホテルのスイートルーム並の豪華な病室である。ところが、看護師さんたちに総スカンを食らった。わがまま勝手で人を見下した言い方をし、自分の要求が聞き届けられないと相手を罵倒する。平素から、金と地位の権力で部下たちに威張り散らしてきたのが習わしとして身に染み付いてしまったのである。
ある時、怒りにまかせて看護師さんを蹴ったため、退院させられた。やむなく自宅療養していたが、家政婦さんも居つかず、あるボランティア団体に家事援助を申し入れた。団体では「なんであんなお金持ちのとこに行かなあかんの」派と、「けど困って頼んできたんやから行かんとあかんのちゃう」派とで議論があったが、救済派が勝ってあるボランティアさんが出かけた。彼女が豪邸の玄関のボタンを押すと、出てきた家人が「あ、あんたのような人は裏の出入口から入って」。頭にきた彼女はそのまま帰ってきて、団体は派遣を断った。
お金持ちだから尊敬されるのではない。そのお金を人のために生かしてこそ尊敬され、自らも救われるのだと思う。
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