『その手は命づな』(書評)
横川和夫 著/太郎次郎社エディタス(1,995円)
脳内出血で身体が不自由になった妻のカツ子さんの世話を、夫の大関勇さんは、「まごころヘルプ」の河田珪子さんに頼んだ。
「こっちが頼むんだから、いいじゃないすか。よくなれば、こっちも頼まないけど」
しかし、河田さんは、一日七時間みてもらいたいという勇さんの申し入れに応じない。
「本人のためになることは、ぜんぶやりましょう。でも、自分でできるところは、手助けはしません」
著者は、その理由を掘り下げる。
「手早く買い物に行ってきて、お掃除して洗濯して食事つくれば、二時間あればじゅうぶん。七時間いたら、彼女は何もできない人になっちゃう」。出した答えは、はじめの一週間だけ一日七時間、二週間目から四時間。四人の会員がネットワークをつくってカツ子さんの自立を支えた結果、カツ子さんは水彩画を描くまでに回復した。その絵はがきは、バザーに出すとたちまち売り切れる。勇さんもまごころヘルプに参加し、車による病院の送り迎えなどを行うようになった。
この本には、このような助けあいの実例が詰まっている。まごころヘルプを立ち上げた河田珪子さんの十四年間の活動がたて軸である。
新潟に住む義父母の介護のため、平成元年、四十五歳の河田さんは、夫や三人の子と離れ、大阪府の老人ホームでの仕事を辞めて、単身新潟に移り住む。ところが、当時の新潟には、住民参加型の在宅福祉サービスが一つもない。「ないなら、つくろう」、そう考えた河田さんの呼び掛けに、四十代の女性が集まる。新潟日報に論説委員の簑輪紀子さんが書いた社説が後押しする。
会員二千六百人の組織になるまでの過程には、ボランティア組織の立ち上げ方、運営の仕方のノウハウもいっぱいだし、一人ひとり違う高齢者や障害者の尊厳を最大限に重んじながら接するノウハウも満ちている。
たとえば、自殺を企てた人について、実は「だれも生きることをあきらめていない」。だから、こちらもあきらめない。また、反抗する痴呆症の人に、「その根源は主婦の役割を奪われた寂しさにある」。だから、役割に戻せば彼女はよみがえる、などなど。
著者の話の引き出し方がみごとだから、この本は、家族介護の人にも福祉のプロにもボランティアにもNPOの組織者にも、目のさめるほどに役立つ、感動的なものとなった。何よりも、老後に安心と希望を抱かせてくれるところが、うれしい。
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