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提言 生き方・その他

更新日:2016年6月8日

助けられ、助ける世界

 目がほとんど見えない身で乳がんに襲われたお琴の師匠梶寿美子さん。その梶さんにほれ込んで妻子と別れ、結婚した京都市役所の幹部公務員梶宏さん。古典演劇か歌舞伎のストーリーを地で行くようなお二人であるが、寿美子さんは、ありていに申し上げて、男を惑わすような魔性の女でもなく、男の心をしめつけるようなはかなげな風情の女でもない。はっきりとものをおっしゃる、すっきりした現代女性である。

 そのお二人とロームシアター京都(旧京都会館)でトークしたのが去る4月30日、寿美子さんが開いた「盲老人ホーム改築チャリティトーク&コンサート」の舞台であった。

 前日の打ち合わせでしゃべったのはもっぱら寿美子さんだったが、彼女は、「トークショーでは二人のなれそめを話すわ」と宣言。市役所かいわいでは有名な話らしいから聴衆には興味深いかもしれないが、思わず「大丈夫ですか」と言ってしまった。

 「大丈夫、大丈夫」と彼女はおおらかで、私は打ち合わせの席上と本番と2回、熱いなれそめ話を聞かされることになった。ただ、横にいる宏さんはにこにこしているだけで語らないから、彼の気持ちがいまひとつわからない。そこで本番の席上私から、彼に質問した。「失礼ですが、宏さんは寿美子さんにいつも引っ張られているんですか?」

 「私は主夫ですよ。料理も家事も全部私がやっています」。そう答えた彼の何とも満足そうな笑顔を見て、私はやっとわかった。「宏さんはこの才能ある寿美子さんを支えることが大好きなのだ。82になった今も」

 寿美子さんはごく自然に助けてもらっている。いちいち礼を言ったり卑屈になったりしない。

 その一方で、困っている視覚障がい者のためにチャリティーを呼びかけ、この会でも収益100万円を施設経営者に手渡された。寄付の呼びかけも熱く、堂々としている。

 「助けられる」「助ける」が両方あって当たり前の人間の世界がそこにあった。

(京都新聞「暖流」2016.5.30掲載)

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