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提言 生き方・その他

更新日:2018年10月16日

手を握っていて

 20年同居してきた猫のクマが死んだ。黒くて熊似だが気の小さい甘えん坊で、息子が拾ってきたヤツだから年齢はわからない。
 9日ほど前から飲まず食わずになり、口に濡らしたタオルを付けても、吸いもしない。それでもよく生き延びて、心細い声で呼びかけてくる。根気よく妻や息子が返事をすると、いつまでも呼び続ける。動物はひとり(一匹?)で誰にも看られず消えるように死ぬのではなかったのか?
 この間お会いした笑医塾の医師高柳和江先生は「食べる人は死なない」とおっしゃっていたが、クマはまったく食べないで10日近くも生きた。先生は、また「孤立している人の脳は萎縮する」と言っておられたが、クマは、最期まで、私と妻と息子とを識別して呼びかけ方も変え(?)頭はしっかりしていた。ヤツは最期まで孤立しておらず、ぜいたくな見守られ方をしていたから、その分、最期まで会話を交わしながら生き続けたのであろう。
 猫でもそうなのだから、もともと人と交わり、支え合って生きる人間の場合、孤立せず、頭と心をいきいきと使いながら暮らすことは、幸せな長寿と幸せな最期のために、とても重要なことだと思う。

 「死に方のコツ」(小学館文庫)という名著がある高柳先生は、しかし、幸せな最期のところで迷っておられた。
 「私、みんなに見られて『往生際が悪いな』なんて思われて死ぬの、嫌でしょ。だから『一人で死ぬから放っといて』と思うの。だけど誰かに手を握ってもらいながら逝くのもいいじゃない。だからどっちにするか決めかねているのよ」
 死に方を考えるより今生きることが大切、という高柳先生の考え方はまったくそのとおりと思うが、私はそういう生き方をしながらも、死ぬ時の希望はもう決めている。
 愛する人に手を握っていてもらいたいのである。だからクマの気持ちがわかる私である。

(京都新聞「暖流」2018.10.8掲載)

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