「本気で叱(しか)り、心から褒める痴呆(ちほう)性高齢者は、口先だけで保身的な教師よりも優秀な教育者だ。」
「なにっ」と怒らないで頂きたい。これは私の言葉ではなく、三重県でグループホームなどを運営している多湖光宗さんの言葉である。
多湖さんは、荒れる学童保育を引き取って、学童たちを痴呆性高齢者のためのグループホームの一階に入れた。宿題をほったらかして、いじめと指導員に対するからかいに興じる学童たちを、痴呆老人に監視させようというのである。
はじめは二階の手すりから一階の学童たちを監視していた痴呆老人たちは、すぐ一階に降りてきて、学童たちに口を出し始めた。
宿題をしない子には、怒る。学童たちは、こんなに真剣に怒る大人に出会ったことがない。迫力に押されて、ほっぺをふくらませながら、宿題を始める。
その様子をじっと監視するおばあちゃんがいる。多湖さんによると、このおばあちゃんは、ほとんど眼が見えないのだという。
宿題ができると、老人たちがほめる。これがハンパじゃない。心から感嘆してほめる。子どもたちは、うれしくなり、達成感を味わい、自分に自信を持ち、宿題が好きになる。こうして、宿題をするクセが身に付いていく。
宿題ができた証しにシールを貼(は)るおばあちゃんは、要介護度4。子どもたちが来る前は、おむつをちぎる困り者だったそうだ。小さくちぎる技術が生かされた。
宿題が終わったあとの遊び。将棋で勝ったと喜んでいるおじいちゃんに、学童が「違うよ。飛車が斜めに動いて王を取るなんて、ずるい」。しかし、おじいちゃんは、降りない。子どもの方が、仕方ないよねと認めて、大人になっていく。
荒れていた子どもたちも、痴呆老人たちも、素晴らしい人間なのだと思う。冒頭の言葉を、素直に受け止めてほしい。
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