日本は四人に一人が高齢者という時代に突入していく。公的介護などの財源不足が懸念されているが、高齢者自身は単に福祉サービスを多く受けることを望んでいるわけではない。高齢者が本当に求めているのは人間としての「心のふれあい」であり、高齢者福祉というのは、介護など身体を支えるだけではなく、高齢者の心も満たす必要がある。そういう福祉の仕組みを作ることが、高齢社会の最大の課題であろう。
私は十三年前に法務省を退職し、福祉の世界に入った。さまざまな法律・制度の立案など社会システム作りに携わった経験が、高齢者福祉の民間システムを作るうえで貢献できると考えたからだ。私の主宰する「さわやか福祉財団」では、地域社会の中でお互いが助け合う、ボランティア組織の普及に取り組んでいる。
高齢者をひとくくりに、福祉サービスを受ける立場と見るのは誤っている。実際には多くの高齢者が、旅行や趣味の活動を楽しみながら元気に暮らしている。こうした高齢者にとって最大の生きがいとなるのは、やはり人と交流して喜びを共有することだろう。
元気な高齢者をはじめ市民が、例えば配食サービスに腕を振るったり、また車で高齢者を病院に送ったりと、高齢者福祉に役立てる分野は多くある。こうした活動を通じ「心のふれあい」をつくっていくことは、行政よりもボランティアが得意とするところだ。
また高齢者が幸せに暮らせる社会の実現には、企業にも大きな役割がある。現在、中高年ビジネスマンの大半が「定年後も働きたい」と希望している。しかし高齢者が蓄積した能力を生かしながら働ける仕組みができていない。
依然多くの企業は若い労働力を徹底的にフル回転させようとしているが、今の若い人には会社に人生を埋め尽くすといった考えはない。勤務時間も給料も半分で良いという高齢者、自分に合った自由な働き方をしたいという若者のニーズにともに応えられるよう、柔軟な雇用・給与体系を形作る必要がある。
高齢者が現役として働けば、保険料を納める側にまわる。ボランティア活動が広がれば、軽度の介護などは市民の助け合いで補える。高齢者が生き生きと活躍することが、結果的に経費負担をやわらげるという循環をもたらす。それを実現するための要点が「人を生かす」ということだ。
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