政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2005年9月16日
福祉のあり方、労働のあり方
『2015年の高齢者介護〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて〜』

 役所の報告書としては珍しく、広く読まれたものであり、例えば聖マリアンナ医科大学の長谷川和夫理事長は、「これまでの報告書の中で最高」と褒めておられる。研究会は、中村秀一老健局長が、行政の指標とするため10年後の高齢者福祉の在り方を探求する目的で設置したもので、福祉にとどまらず、医療、財政、地方自治、法律など広い分野の有識者が参加し、不肖私が座長を務めた。
 2015年としたのは、人口の層の厚い団塊の世代が高齢者側に回る時期だからで、権利意識の強い彼らをも満足させる福祉の仕組みを築きたいとの思いを込めている。
 基本理念は、副題にもあるように、「尊厳の確保」とした。憲法第25条の「生存権の保障」のための福祉(Welfare)から、第13条の「すべての個人の尊重」のための福祉(Well-being)に高めたのである。尊厳の確保は、医療、教育、労働、住宅その他、人に関するすべての政策に共通する、人類最高の目標だと言える。
 この崇高な目標は、福祉政策や福祉制度の運用のみによって達成できることはあり得ず、本人、家族、近隣の人々、ボランティアなどの組織と連携し、また、医療、教育その他のフォーマルな関連分野とも連携して、総合的な対応を進めないと、実現できない。
 そのため、本書は、地域包括ケア、小規模多機能施設その他多様な提言をしており、介護保険制度の改築、介護予防、リハビリ、痴呆ケアなどの再構築、住宅政策や福祉職員の質の向上策など、新しい政策の展開をリードしている。
 福祉分野の動きは激しいが、もちろん、実践と理念の両面から絶えず検証を行っていかなければならない。惜しむらくは、福祉の理論については、政策を先導する実践的学者がいる半面、介護保険制度の評価すら正当に行うことのできない教員もいて、福祉を志す学生たちの夢に水を差していることである。客観的分析の必要性が高い。
 なおインフォーマルなサービスの位置付けについては、拙著『心の復活』を参照願いたい。

『転換期の社会と働く者の生活―「人間開花社会」の実現に向けて』

 前書と違ってあまり読まれず、評判にもならなかった報告書であるが、10年先のあるべき働き方を描いた名著として推薦したい。懇話会の座長は小野旭氏で、山崎正和、清家篤、中村桂子各氏らとともに、私も参加した。
 「人間開花社会」とは、役人離れした言葉であるが、「はじめに」から引用すると、「ヒトの持っている多彩な資質・才能を伸ばし、開花させ、それぞれの能力を社会貢献に向けることにより、文化、社会、経済にわたる多面的発展を遂げることができる社会」のことである。私の言葉で言えば「働くことを選べる社会」ということになる。
 これからの働き方を、急速にこのような方向に転換させないと、日本は持たない。フリーター、ニートの激増を見よ。彼らはこれまでの働かせ方を見限ったのである。子を産む女性を退職させ、産んだ後はスーパーのレジなどの職しかないのでは、女性は子を産まない。60歳での退職を強制していたのでは、高齢者は稼いで税金と保険料を払う側に回らず、依存して年金に頼る側にとどまる。年齢、性別、国籍いかんにかかわらず、それぞれの人の能力と意欲に応じて働ける社会、いつでも休職、転職ができ、それが不利にならない社会に、早急に変えなければならない。拙著『生きがい大国』第11章に、その構想を描いている。

(月刊NIRA政策研究掲載/2005年1月)
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