政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2005年9月16日
非営利法人税制のあり方

 まず、寄附金税制のあり方について述べる。
 政府税調が新公益法人のすべてを“寄附金優遇法人”とするという方向を打ち出したことは、新鮮な驚きであった。自分たちの手で公益を実現しようという民間のエネルギーを活用しなくては、やっていけない。その理解が進んだことは、嬉しい。
 その方向で、地方税“(個人住民税)”の所得割の部分についても、寄附金控除を拡大すべきである。年を追って隆盛になりつつある民間公益活動の実態を見れば、それによって反射的利益を得る度合は、圧倒的に国よりも地方自治体のほうが大きい。特に民間公益活動が未熟な地方のレベルアップを図るためにも、国の税制と同基準にすべきである。
 また、土地その他の“資産を寄附”した場合の相続税等の課税についても、同じ基準で優遇措置を採るべきである。みなし譲渡所得についても、過去の利益を実現しないまま公益の用に供するのだから、課税すべきでない。
 新公益法人の認定責任は重いが、内閣府は、早急に“公益性の客観的認定ルール”の確立に向け、公開で検討を進める必要があろう。
 次に、新公益法人に対する法人税制のあり方について述べる。
新公益法人については、その“本来事業”(これに関連する事業を含む。)は、アメリカ並みに“非課税”とすべきである。真に公益事業であれば、さしたる剰余金が出る筈はないのであり、それはすべて公益事業に投入されるのであるから、これに課税するのは、国に課税するようなものである。
 新公益法人の本来事業非課税が実現してはじめて、負担可能な公益の受益者にはその限度で負担を求めつつ、公益サービスを継続的に提供する仕組みをつくることが可能になる。
自立した市民による民間活力を引き出す決め手は、本来事業非課税である。
 公益活動を行う法人といえども、収益を得ることを目的として行う事業については、課税すべきである。ただし、課税の根拠は、収益を分配する(利益を享受する者がいる。)ことにあるのではなく、同種の収益を目的とする営利事業と競合した場合の、イコールフッティングにある。現行法上課税される「収益事業」は、販売業等の業種で定められているが、これは立法時の過誤であって、33業種に該当しても本来事業として行われるものは収益事業ではない。また、本来事業でなくても、営利事業と競合しないものについては課税すべきではない。
 政府税調は、現行の業種限定方式に代えて“「対価を得る事業」を収益事業”と規定したい意向のようであり、そのことには課税の公平実現のため賛成するのであるが、対価を得る事業であっても、本来事業には課税すべきではない。仮に現行方式を踏襲して本来事業にも課税するという不適切な立法政策を採るのであれば、少なくとも次の2つを収益事業の例外と定めるべきである。

(1) 役職員に対し、労働の報酬を支払わず、謝礼金(スタイペンド)を支払うにとどめることにより、事業の継続が可能となっている事業
(2) 経済的に営利事業の提供するサービスに対する対価を支払うことができない者に対し、実費あるいは謝礼金程度の負担を求めて同種のサービスを提供する事業
 それらの事業は、僅少とはいえ対価を得ている外観を呈していても、実質的に営利事業とは競合せず、営利事業の満たせない不特定多数の者の利益(公益)を満たすものであるからである。
 また、本来事業に当たらない収益事業によって得た収益を本来事業に供する時は、“100パーセントのみなし寄附”を認めるべきである。それは、税金あるいは公益法人に対する寄附と同じ性質の拠出金であるからである。もし、新公益法人が本来事業と収益事業とを区分経理せず、営利法人と同様に一括経理をしていれば、収益事業の益金は、すべて本来事業の損金と通算されるのであるから、それとの均衡上も、100パーセントとすべきである。
 一般非営利法人に対する法人税制のあり方について述べる。
 今回政府税調が、同窓会のように専ら共益を目的とする一般非営利法人について、会費(対価性のないもの)を非課税としたことは前進である。しかしながら、共益活動のために拠出される資金は、対価性のない会費にとどまらず、“寄附金”もあり、共益の幅の大きいものには“補助金や助成金”もある。そもそも一般非営利法人の収入は、営利事業と競合する収益事業(この法人類型については、本来事業も含む。)によって得たものでなく、かつ、構成員に分配しない限りは課税すべきでないというのが法人税課税の基本的考え方であり、これまでの課税体系は、この考え方に立脚したものとなっている。ここで体系を乱すと、実務上禍根を残すであろう。
 政府税調は、“営利法人と実質を同じくするような一般非営利法人”については原則課税としたい意向と見受けるが、共益法人か実質私益法人(営利法人)かを事前に見分けることは不可能である。利益分配を予定している非営利法人に対しては分配の仕方に応じた課税をすることとし、予定していない非営利法人が役員に対する利益供与などの形で事実上の利益分配を行った時は、税務当局において否認し、制裁として原則課税の処分をするのが実態に適合した仕組みであると考える。

(月刊公益法人掲載/2005年7月)
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