住みやすい町をつくる時、保健師さんの役割がけっこう大きいなとあらためて気付かされた。
悪い方の例からいえば、震災に遭った東北のある町の保健師さんが、復興の壁になった。私は仲間たちと、地域包括ケアのある町への復興を被災市町村に働きかけてきたが、町の保健福祉行政を束ねている保健師さんが、地域包括ケアをわかってくれない。「最後まで在宅でなどというのは、この町には合わない」の一点張りで、町長も関係者もその保健師さんの言うことにさからえなかった。
良い方の例をいえば、近畿のある市の保健師さんである。住民の健康づくりに熱心で、厚生労働省が次々に打ち出す介護予防のための事業を取り入れ、健康教室や料理教室、さまざまな住民の集いなどを開いている。けっこう男性の参加が多く、厚労省もそこを高く評価している。上司である部長や課長らも、「なにしろ彼女はどんどん住民の中に入って働きかけていくし、住民の方と同じ目線で話して信頼されているところが素晴らしい」とべたほめである。
活力にあふれ、実行力満点の保健師さんであるが、あえて難をいえば、事業そのものは○○教室といったように、「専門家が教えます」というにおいのする点が気にかかる。
そのにおいを完全にとり去った最高の例が、長崎県佐々町の保健師江田佳子さんである。
彼女も介護予防のための事業を仕掛けてきたが、いまひとつ住民の集まりがよくない。全員に参加してほしい彼女がいろいろ考えた末、たどりついた結論は、「これまでの事業は上から目線だった。これでは楽しくない」ということだった。
それから彼女は、地域の住民が集まってどんなことをしたいか聞いてまわり、住民の方々の企画に委ねた。参加者はぐんと増え、介護認定率は見事に下がった。佐々町職員の手作りDVDには、笑顔いっぱい幸せいっぱいの住民が次々に登場して、見る方の心も暖かく浮き立ってくる。
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