ご近所には、困った時に助けてくれる組織があるだろうか。自治会はどうか。子どもを預かってくれたり、買い物や掃除を手伝ってくれたりするNPOはあるだろうか。道に迷った認知症者を助けてくれる地域社会の仕組みはあるか。
社会生活をしていく上で役に立つ活動の仕組みを社会資源と呼び、経済の仕組みとあわせ、これら社会資源が豊かに活用されるほど、人の生活は充実したものになると認識されている。
そういう見方からすれば、ボランティア活動や助け合いを広める運動は、社会資源を増やす運動だということになる。支援が必要になった高齢者を、介護保険による給付(サービス)でなく助け合いで支えていこうという新しい仕組みも、社会資源の拡充を図る制度だと理解されるのである。
■役立ち方は多様
そこで行政は「まず、それぞれの地域にどれだけの社会資源があるか調査しましょう」となる。地域アセスメント(評価)などと、英語を使うのは、学者の発想を受けているからである。
これは行政施策の立案の常道だ。実情がわからなければ対策の立てようがないから、当然の発想である。
問題は、社会資源の把握の方法である。
買い物や掃除を手伝ってくれるといっても、対象を特定の高齢者に限定するのはもちろん、支援する側の組織にもさまざまな条件を付けている地方自治体が多い。要件に合致しないと、補助金を出さないのである。
そういう組織と、まったく自由に「今こんなことで困っている」と言えば、誰であれどんな困りごとであれ何とかして助けてくれる組織(補助を受けず市民の心意気だけで助け合いをやっている組織に多い)とは、同じ活動をしている社会資源といっても、まるで社会的有用性は違う。これは一例であって、その社会資源がどれだけの地域のどんな人に、どんな点で役立つかは、組織ごとに実態が違うのである。
だから学問的正確性をもって関係する社会資源の実態を調査をしようとすれば、ほとんど無限の人と時間がかかる。なぜなら、同じ組織でも時の経過に応じて活動の実態は変化していく。また、その活動は、地域の人々が知り、活用しなければ資源としての力を発揮しない。ところが、活動についてどれだけの人が知っているかを正確に調べることは、まず不可能だ。
■ワークショップ
では、実態の把握は諦めるのか。そうでないならば、どんな調査をするのか。
実態調査などいらない地域もある。たとえば、助け合いが絶対的に足りない大都市。家事支援などをするNPOは点として存在するが、とても地域をカバーすることなどできず、多くの住民が助け合いに期待することすら忘れている状況だ。
住民が自分のニーズにすら気付いていないところでは、社会資源の調査もニーズ調査も意味を持たない。そういう地域では、助け合いをやろうと手を挙げる人に、やりたいことをやってもらうのがもっとも効率的な対応であったり、やってもらいながらニーズを顕在化していくしかない。
一方、助け合いに対する住民のニーズがある程度存在する地域では、ニーズ調査とそれを満たす社会資源の調査を行うことが必要である。それがないと、その地域が求める助け合いを適切に創り出すことが難しいからである。ただ、まず社会資源の調査をアンケートや面接などで静的に行うことは無駄が多い。そうではなく、地域住民の集会で、ワークショップ(全員参加の協議)を開き、「今の生活で、どんな助け合いが欲しいか」「地域の人が欲しがっている助け合いにあなたは参加するか」を話し合うのが、もっとも有効な調査になる。
それにより、すでに地域にあって住民のニーズを満たしている社会資源も浮かび上がるし、その資源の足りないところもわかる。住民に知られている資源の存在が動的に把握されるとともに、その調査のためのワークショップで、資源調査の目的である「地域に足りない資源の把握」と「足りない資源を創り出す担い手の発掘」を端的に行うことができるのである。
社会資源の調査を社会に役立つように行うには、これを学問的、静的に行うのでなく、住民の中に入って動的に行うことが重要だといえよう。
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