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提言 政治・経済・社会

更新日:2018年5月24日

認知症者の外出

 北海道のある町の居場所で、集っているご近所の人たちと話していたら、
 「あ、あそこを歩いているのが認知症のおじさん」と外を指さす。見ると60、70代の男性が一人、車の多い道路の向こう側をコンビニの方へ歩いている。

 「一日に何回かあのコンビニに行くのよ」と、ご近所の方々はその男性の暮らしぶりを知っている様子。

 「一人で大丈夫ですか」

 「大丈夫。あの人は慣れてるから」

 すると一人が、

 「でも、道路の反対側に知った人を見つけると、あの人は車も見ないでいきなり道路を渡るの」

 「それ危ないでしょう」

 「でも、事故になったことはないの」

 この町の人たちは運転者が避けると信じているのか、こだわらない。

 愛知県で認知症の男性がJRの列車に轢かれた事件について、最高裁判所は、「認知症者の単独外出は危険」という前提で判断したが、この前提は人権侵害のおそれがある誤った考え方である(2016年4月12日付京都新聞本欄参照)。

 ただ、悩ましいのは、本人が事故に遭う危険をどう防ぐかという問題である。広島県福山市の鞆の浦のように、車道に出ないようにさりげなく地域で見守り、出ない限りは自由という方法があるが(2015年8月18日付京都新聞本欄参照)、それだけの地域力をつけるには、時間がかかる。

 京都府はかつて警察署ごとにSOSネットワークシステムを作ったが、その中で先進的な左京区ネットは「徘徊者を見つけて警察に引き渡す」という従前のやり方を脱して「認知症になっても外出し続けられる左京区を目指しましょう」という良い方向に進もうとしている。昨年10月には、交通会社5社と川端、下鴨2署も参加して「外出をあきらめない交通セクターとのワークショップ」も実施した。こうした着実な試みを通じて、関係者が根気よく危険を消去していくほかないであろう。

(京都新聞「暖流」2018.5.21掲載)
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