地域包括ケアの五つの要素の中に「住まい」がある。これまで論議されてきた課題の一つは「最期まで住み続けられる住宅」で、その検討から「サービス付き高齢者向け住宅」が生まれた。高齢になってそこへ住み替えることを予定している。もう一つは「施設における個人の尊厳の保持」で、ユニット化や個室重視はそのラインの政策である。
しかし、個々人が普通に住む住宅の形については検討されていない。少子高齢化の進行で空き家が増え、また戦後増やしてきた住宅の老朽化が進むなか、今後住宅を建築、改築するに際しては、20年後、30年後の超高齢社会における暮らし方に適応する形に改めていくべきではないかと考えている。
その一つは、新しい客間(つどいの間)の復活である。戦後、家族や個人用の一般住宅は家族・個人の暮らしのためだけのものとなり、客間・応接間が消えた。住宅の構造から共助共生のための部分がなくなったのである。
生活上の困りごとを地域の助け合いで支える社会に向けて共助共生を復活させていくのであれば、住宅の形も元に戻していくべきではないか。かの個人主義者夏目漱石先生だって、自宅にいろんな客人を迎えて楽しんでいたのである。新しいつどいの間は、地域の方々や友人、仲間たちが、主人(あるじ)がいなくても気楽に上がりこんで寛げる空間としたい。さらに、近所の子どもたちはダイニングなどにも自由に入っていけるようにして地域で子育てをしたい。
もう一つは、住宅の施設化である。新しい客間に続けて、重度要介護状態になった家族が寝起きする部屋を置きたい。訪ねてきたプロや助け合いの人が、施設の部屋に入るように、家族にことわりなく出入りできるようにする。もちろんそういう状態になる前は、居室として使っていればよい。
この二つの構造に加えて、家族が集うダイニングとキッチン、浴室・トイレを置き、ほかは家族の形態に応じて必要な個室を設ける形の標準型に設計すれば、多くの人が住み替えなしに自宅で最期を迎えられるのではなかろうか。
少子化で一人当たりの居住用面積も増えるのだから、大胆に発想したい。
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