政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会

更新日:2022年2月9日

人間開花社会への転換

 厚生労働省の報告書にある「人間開花社会」という言葉をご存じだろうか。

 「『人間開花社会』は、これまでの社会が経済成長を目標に、生産要素として労働力を扱ってきたのに対し、こうした考え方を逆転させ、ヒトの持っている多彩な資質・才能を伸ばし、開花させ、それぞれの能力を社会貢献に向けることにより、文化、社会、経済にわたる多面的発展を遂げることを目標とするものである」

 この報告書が出たのは2004年であるが、その提言は、まったく注目されてこなかった。

 日本社会は、2010年代半ばからやっと動き出す。グローバル資本主義による競争の激化により格差が急激に広がり、黒い不安が社会全体を覆う事態になったからである。一億総活躍、働き方改革、地域共生社会、地方創生、まち・ひと・しごと、我が事・丸ごとなど、人間性の回復と社会の活性化を目指す政策が次々と打ち出され、ついに「新しい資本主義」という旗印が立って、格差是正の分配に向けての検討が始まった。

 とはいえ、格差社会の勝者の社会支配力を考えると、人間開花社会に向けての一挙の逆転などは叶うべくもない。一般市民の想いを重ねて、足元から地道に改革していくほかない。

 まずは誰一人取り残さない適正な分配の実現に向け、市民の大多数が声を上げ続けることである。

 もう一つ大切なことは、すべての市民が、生産の場でも生活の場でも、誰からも支配されず、持っている多彩な資質・才能をのびのびと発揮し、いきがいを持って暮らせる社会にすることである。

 そういう社会は、個々人の存在と能力とを無条件に承認できる家族関係や地域コミュニティなら、各人の自覚だけで実現できる。非営利団体も、利益競争はせずに済むから、フラットな人間関係にして昇進競争を排すれば実現できる。助け合いの組織が人間開花社会に近いのはそのためである。

 実は、営利会社でも、成果競争・昇進競争を排して全社員に才能を発揮させ、楽しく仕事をさせる組織運営は可能である。その組織で働くこと自体をいきがいとする人を集めればよいのである。

 日本社会の沈没を防ぐのは、大胆な人間開花社会への転換であろう。

(「厚生福祉」2022.2.8掲載)
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