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提言 世界
更新日:2023年1月17日
不毛な軍拡競争の愚かしさ

 限定要件付きとはいえ、相手国の領域において武力を行使して反撃する戦力を保持できる方向で政治は動いている。

 限定要件は抽象的で解釈困難であるが、では自衛権の範囲の解釈を誤って国際法上(憲法上はもちろん)違法な武力の行使をした場合、どうなるのか。

 その責任を国際的に問われる恐れは、まずないのである。

 自衛権の行使以外の武力行使が全て違法となった第2次世界大戦後の戦争を見ると、相手国が武力行使に着手していないのに相手国に攻め入った戦争は、ロシアによるウクライナ侵略戦争以前にも数多い。イラクがイランに侵攻したイラン・イラク戦争、アメリガがイラクに侵攻したイラク戦争、アラブ諸国がイスラエルを攻撃した第1次中東戦争、イスラエルがエジプトに侵攻した第3次中東戦争、インドにパキスタンが侵攻した第2次インド・パキスタン戦争など、一方の明白な先制攻撃で始まる方が一般的とさえいえる。

 にもかかわらず、どの戦争でも違法な戦争を開始した責任は問われていない。その理由は、第2次世界大戦以降の戦争のほとんどが第三国の仲介等により両当事国の合意で終了し、その合意に際して戦争開始責任や、戦争遂行中における民間人殺害など個々の人権侵害行為の違法性追及が(事実上)免責されてしまうからであろう。

■自動的に違憲

 それでは相手国の領域を攻撃できるミサイル等を所持しても問題は生じないのかといえば、そうではない。

 議論は戦争開始時の反撃の在り方について行われているが、ほとんどの戦争は、いったん開始されると終結が困難で、相当期間継続する。その間、相手国の攻撃に対する反撃として継続的に行う武力行使は、自衛権の行使として適法なのか。

 継続的戦闘行為における自衛権の問題は、国内法上も国際法上も詰められていないので、現実問題からアプローチする。

 相手国領域を攻撃できる兵器を所持した場合、これを戦争開始時に自衛権の行使として敵基地の攻撃に使ったが攻撃を止めることができず、相手国がその基地からの攻撃をなお続ける時、どうするか。それに反撃しないということは、あり得ないであろう。となると、その継続的な武力行使は、国際法上はいざ知らず、少なくとも日本国憲法9条の解釈としては、自衛権の行使の範囲を超えていると認めざるを得ないであろう。

 とすると、自衛としての敵基地攻撃能力の保持を理由に長距離弾道ミサイル等を所持することは、戦争が起きればいわば自動的に憲法違反となる兵器を所持するということにならないだろうか。

■全面戦争なら

 議論を進めて、たとえそれが憲法違反の事態を招く恐れがあったとしても、日本は、アメリカにもっぱら矛の役割を果たしてもらうのは不当利得だから、矛となる兵器を持つ必要があるという議論が成り立つのかを考えておきたい。

 中国も北朝鮮も危ない行為に出るが、アメリカとの戦争になる事態は慎重に避けている。だから戦争の可能性は、軍事演習等の過程で起きる誤爆などの偶発的ミスで国民世論に火が付いた時に絞ってよいであろうが、いざ全面戦争になれば、北朝鮮は日本が長距離弾道ミサイル等を持つと否とに関わりなく、国民的基盤の脆弱な国家体制を維持できずに崩壊するであろう。

 中国との戦争は早々に決着しないであろうが、中国が本土に近い台湾の金門、馬祖両島すら容易に占拠できていない状況などを考えると、中国が、台湾や日本(沖縄など)を完全制覇するような事態は、まず起きないであろう。

 その前に、中国側と、台湾、アメリカ、日本その他の連合軍側の双方に、現在のウクライナやロシアの被害をはるかに超える悲惨な人的・物的被害が出て、両側の国民ともに、戦争終結を望む声が高まるに違いない。国民の生死をかけた反発は、中国政府の強権をもってしても(この間のコロナ禍騒動以上に)抑えられないだろう。

 その時になって各国ともに悲痛な後悔をしないように、来年5月に広島市で開かれるG7サミット(先進7カ国首脳会議)では不毛な軍備拡張競争による威嚇の愚かしさとその誇示行為のはらむ危険性を、特にアメリカに向けて協調してほしい。

(信濃毎日新聞「多思彩々」2022.12.18掲載)
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