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定期連載 学びの時評
更新日:2005年9月16日
子供たちに「社会力」を

 東北の熱血校長先生、堀米幹夫さんが、山形県尾花沢市にある県立北村山高校に赴任したのは、一昨年の春である。彼は、学校と最寄り駅との間の通学路が、「ごみ街道」と呼ばれているのに衝撃を受けた。
 「誰がごみを捨てたかは問題にしない。しかし、これでよいのか、みんなで考えてほしい」
 彼の呼びかけに応じてまずスポーツクラブの選手たちがごみを拾い出し、一般の生徒や教職員も加わり、やがてごみを捨てる生徒がいなくなった。
 「ボランティア活動で、生徒の成績が上がるとか下がるとか、学習面での影響がありますか」と私は堀米さんに質問した。ボランティア活動で人間性が豊かになったという報告はたくさんあるが、学習への影響を調べたものは、ほとんどない。
 「何となく落ち着いてきて、学習にも集中するようになりますね。特にボランティア活動をしている子と、していない子とでは、自分で課題を見つけ出して、これを解決しようという意欲がまったく違います」
 私は、うれしくなった。そういう意欲、能力こそがいまの日本社会全般に必要なものだからである。
 筑波女子大学の門脇厚司学長は、学習研究社と協力して、「総合的な学習の時間」などではぐくもうとする「社会力」と、学力との関係を調査している。「社会力」というのは門脇さんの言葉で、人が人とつながり、社会をつくり、運営し、よりよい方向に変えていく能力のことである。
調査は、小学一年生から六年生まで、各学年男女百人ずつを対象に行われた。その社会力を測る質問は二十あり、たとえば「クラスに新しく入ってきた子がいると、すぐになかよくなりたくなる」「友だちの顔をみると、どんな気持ちかよくわかる」「こまっている人を見ると、たすけてあげたくなる」などである。
 こうして測られた子どもたちの社会力と成績とは、みごとに比例していた。特に社会や国語、理科では、社会力が上位のグループと下位のグループに、三倍ほどの成績の差が出ている。また、社会力のある子ほど勉強の時間も長いし、楽しんで勉強している。これらの内容は、「社会力(いきるちから)が危ない!」(門脇厚司著、学習研究社)と学研版「小学生白書」(二〇〇〇−二〇〇一年版)にまとめられている。
 最近企業は、出身大学や学校での成績を無視して人物本位の採用をするようになってきているが、当然のことである。すべてが複雑になっていくこれからの成熟社会では、問題を発見する感性や、その解決策を考える力、そしてその基礎となる社会力をそなえた人が求められるからである。
 管理教育では、そういう人物は育たない。

(読売新聞掲載/2004年7月26日)
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