帰宅途中のサラリーマンに、少年たちがいきなり襲いかかり、財布を奪う。バットで殴られ、失明した人もいる。捕まった少年たちがケロッとして言う。
「だって、ぼくたち、ゲームをやるお金が欲しかったんだよ」
「あんな暗いところを一人で歩く方が悪いんだよ」「大人なんだから、自分の身は自分で守らなきゃいけないんでしょ」
責任逃れで言っているのではない。本気でそう思っている。そういう超自己中心的な少年たちをめざめさせる方法の一つにロール・レタリングがある。この方法を確立した西九州大学名誉教授春口徳雄さんの本「ロール・レタリングの理論と実際」(チーム医療)から、例を引く。
十八歳にして二度目の少年院送りになったM少年は、すぐ怒り暴力を振るうお父さんは大嫌いだと、父宛(あて)の手紙に書く。これは実際に出す手紙ではないから、思いどおりに書ける。そして、今度は、自分が父になったつもりで、その手紙に返事を書く。
最初のころは、「今まで育ててやったのに、ケチつけられたら頭にきます」などと書いていたのが、やがて「普通の生活をしたいのなら、できないことはないと思います」と励ます父になり、何か月か経(た)つと、「お父さんも自分勝手だったが、話し合いたくてもMは逃げるので話し合えない」と、父の立場に理解を示すようになる。
何回もの架空の手紙交換を経て、M少年は、「私は、本当に自己中心的でひきょうな人間でした。(中略)親父(おやじ)のあやつり人形ではないと言っておきながら、父を一人の気持ち、心を持った人間なんだと認めていませんでした」と書くに至る。
今、ロール・レタリングはほとんどの少年院で採用され、二〇〇〇年から毎年、全国ロール・レタリング学会も開催されるようになった。
この手法を福岡県大野城市立大利(おおり)中学校の教育に取り入れた岡本泰弘教諭は、実施した生徒としなかった生徒の変化を比較調査したところ、「自尊感情」「共感性」ともに、これを行った生徒たちの方が有意に向上し、逆に「ストレス反応」は減少したと述べている。
自尊感情は、生きる力(学習意欲)の根源であり、共感性は、よい人間関係を築く原動力となり、ストレスの減少は、いじめや反抗、登校拒否などの減少につながる。書いて自分を見つめ、周りの人々の気持ちを理解することが、このような効果をもたらすことは、容易に理解できる。
先生方も、荒れる子や不登校児、あるいは自分勝手な保護者や権威主義の校長などとロール・レタリングされてはいかがであろう。文部科学大臣相手だと、違いが大きすぎて効果がないかも知れないが(?)。
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