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定期連載 学びの時評
更新日:2005年9月16日
夢売る学校 夢追う生徒

 昔、「少年よ、大志を抱け」と言った。今は「夢を持とう」である。子どもにそんなこと言ったって無理だよという醒(さ)めた大人の声もあるが、私は、夢を持とう派である。
 ところが、多くの学校が夢を持てるようになっていない。医師とか法律家とかパイロット、調理師、教師、看護師など、学ぶコースと結びついている職業もあるが、赤ひげのような市井の医師や、バリバリの国際派弁護士になりたいという夢を持っても(夢というのは、しばしばそのように具体的なものである)、どの大学・大学院がそのコースに近いのかわからない。
 国立大学は独立法人になったし、公立高校もかなり自由度が高まってきているから、学校には少年たちにいろんな夢を売ってほしいと思う。
 ベンチャー企業に挑戦したい、アナウンサー、キャスターになりたい、レストランを経営したい、中国で活躍したい、女刑事になりたい、人徳をみがきたい、子どもの人気者になりたい、コミュニケーションの達人になりたい、などなど。NHKの朝ドラ「ファイト」の主人公はソフトボールがやりたくて、偏差値が上の高校を捨て、女子高に入った。それもよい。合格可能性だけを基準に、A大学農学部、B大学文学部、C大学工学部などを受ける生徒より、ずっと得るものが大きいであろう。
 学校が夢を売れば、少年たちは希望と誇りを持って、その学校に通うことができる。偏差値に由来する劣等感や優越感で人間性を歪(ゆが)めることもない。
 夢を売る学校は、当然入試問題を夢に沿ったものに工夫するであろう。庶民派の法律家養成を売りにする大学院ならば、社会的弱者に目配りした判例や論文を問題のテーマに選ぶなどして、スクールカラーを受験生に伝えるであろう。そして、社会に出て夢を追う卒業生が、伝統を固めていくであろう。
 入試問題には、同種の問題が繰り返し出ても一向にかまわない。教育を損なう入試問題を大改革して、夢を追う生徒たちに心躍るメッセージを伝えるものとしてほしい。

(読売新聞掲載/2005年4月18日)
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