政治・経済・社会
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定期連載 学びの時評
更新日:2005年9月16日
目につく過剰な自己防衛

 東京の街を歩いていると、そろいの制服のような黒いスーツを着たグループによく出会う。新入社員の群れかなと思ってみると、そこそこひねたお顔の方も結構おられる。この間、ある中央官庁の新入職員に対する講演に出かけたが、男女を問わずほとんど全員が真っ黒な服装であった。受講者の半分以上は、入省2年次、3年次の方であったが、彼ら、彼女らも黒で身を固めているのである。
 官庁側や会社側が勧めているのではないそうだから、いわば自然発生的に広がっているらしい。
 しかし、なぜ今どきの若者が、そのような服装をするのであろうか。聞いてみると、「仲間がみんな着てるからですよ」というのが多数派である。その心理がよくわからない。仲間と違う、自分らしい服装をして個性を表したいというのが若者らしい欲求ではないのだろうか。保育園や幼稚園の子どもたちだって、グリーンだ、ピンクだと自分の好きな色を持っているではないか。
 黒制服風現象と関係するかどうか知らないが、このところ意思疎通に難しさのある若者や中年の人と出会うようになった。平素の意思疎通は普通で、何の問題もないのだが、その人の評価や責任につながる事柄になると、異常に自己防衛的になり、責任を他に転嫁する態度をとるというところに特徴がある。
 人間誰しもそういう傾向は持っているのであろうが、その程度が異常で、絶対に自己の非を認めない。そして、善意に発するアドバイスや励ましも、自己を低く評価して責任を間う発言だと歪(ゆが)めて解釈するため、人間関係の維持がうまくいかない。
 私の乏しい観察では、そういう方は、小・中・高校のどこかで、深刻ないじめにあっていることが多い。無視や攻撃に耐えるうち、過剰に自己防衛的になってしまったのかも知れない。
 オンリーワンになりたいのに黒制服風に自己規制してしまう習性も、目立っていじめられるのを避けたいということなのだろうか。いずれにしても、いじめの根絶に全力をあげなければならないと思う。

(読売新聞掲載/2005年5月23日)
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