更新日:2010年9月2日 |
介護保険の検討課題 |
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介護保険制度関係の改正検討作業が急ピッチで進んでおり、介護保険部会はこの夏、忙しい。
2012年度改正に向けて検討すべき事項が網羅的に示された。施設や在宅サービスの在り方から給付と負担のバランスまで、課題は多い。
しかし、それらの課題をどういう視点から検討するかについて、合意がないまま検討しても、混乱するだけであろう。
検討の視点は「どうすれば利用者の尊厳が確保されるか」である。これに優る視点はあり得ない。
まず、その視点から現行制度及びその運用上の課題を取り上げ、その改善策を考案する。次に、改善策を直ちに実施することについての問題、たとえば財政負担が現状では過大に過ぎるとか、それを実施するための人材を即時に揃えるのは困難といった問題を洗い出し、それを克服して改善策を実現するための工程表をつくる作業が要る。
課題を「尊厳の確保」という視点から見れば、施設でなく、「住みなれた自宅」である。集合住宅であれ一戸建てであれ、必要な医療・介護サービスが必ず届けられるサービス態勢の整備を目指すべきである。現在の滞在型のサービスを、24時間いつでも必要なサービスを届ける短時間巡回型のサービスに切り替える必要がある。一方、存続する施設は「在宅化」、つまり、自分の家のように自由が保障されたものでなければならない。個室でなく多床室を認めるというのは、許されない逆行である。
介護認定の区分を3段階に簡素化し、廃止を目指すという検討課題も、余りに近視眼的である。廃止は論外として、区分を粗くすれば、区分の中の軽度の人には過剰なサービスによる依存、つまり尊厳の喪失が生じ、重度の人には必要なサービスの欠落が生じる。
介護予防や要支援など軽度の人々を介護保険から外すかどうかの問題提起も、要注意である。軽度者に対する支援は、地方自治体の責任において、地方の社会資源の実情等に応じた柔軟な仕組みを採れることにした方が、個々人の尊厳をより確保できることは間違いない。しかし、前途はほど遠い。地方の仕組みをどうつくるかが、先行すべき課題であろう。 |
(時事通信社「厚生福祉」2010年8月20日掲載) |
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