更新日:2009年7月1日
新公益法人のゆくえ
公益法人制度は、明治29(1896)年公布の民法によって定められた。独仏の制度に習ったものである。ヨーロッパでは、フランス革命当時は、個人の自由を最大限に強調するため、個人の意思を拘束する法人制度は悪と考えられていたが、資本主義の発展に応じ、まず営利会社制度が認められ、やがて、公益のための法人も容認されるようになった。その時代の法人制度が、明治政府によってとり入れられた。
論理的に言えば、営利法人に対応するのは非営利法人であって、公益法人では狭すぎる。独仏はやがて公益法人に限らず非営利法人全体を認めるのであるが、日本では、一般非営利活動のニーズはまだ低く、公益法人だけを認めたいびつな法制度のまま100年を過ごした。その間、協同組合、宗教法人など、公益法人制度になじまない非営利法人のニーズが生じると、政府は個別立法で対応した。そのため、非営利法人全体を通じる一般法はついに出来ず、この分野は特殊な個別立法のジャングルの様相を呈している。
今回出来上がった一般社団法人、一般財団法人の法制度も、非営利法人全体を律する通則法ではなく、他の特殊な個別立法と並立するものとして立法されている。しかしながら、実質的にはこれが通則法となるものであり、現に新公益法人に限っては、一般非営利法人制度に乗っかる形で立法されている。他の特殊法人等の非営利法人制度も、実態に応じて整理し、全体として整合性のある法制度に再構築すべきであるが、膨大な作業を要するため、いつのことになるかわからない。
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特に新公益法人に近いものがNPO(特定非営利活動法人)である。欧米ではこの両者に区別はなく、その法的性格を言えば、日本でも両者は同じである。しかし、日本では両者の沿革が異なり、一般には、公益法人は官に近いもの、NPOは市民のものと認識されている。この認識を無視して両者を法制度上統合するのは国民の実務感覚に反する。当分の間両制度をともに維持し、その運用に応じて市民側が好都合な方を選択するようにすることが望ましい。10年、20年の運用と法改正を経て、やがては一方の制度に選択が集中するようになってから統合を考えればよいであろう。
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新公益法人制度は、昨年12月1日に施行された。旧民法による約2万6千の公益法人は、5年内に新公益法人の他の法人に移行しなければ、自動的に解散したものとみなされる。
公益活動を継続する公益法人は、新公益法人に移行する方が有利である。新公益法人になれば、その本来事業(公益事業)は当然に非課税となるし、収益事業の収益を本来事業に用いれば、全額損金算入が認められる。寄付も、寄付者の所得計算上損金となる。これまでの公益法人よりも相当有利な税制になっている。税の理論からすれば当然の措置とは言え、やっと米英の制度に追いついたのだから、おおいに活用しないといけない。不動産の寄付の際の税制優遇措置が不十分であるが、これもやがて改められると期待される。
問題は、法人制度の方である。新公益法人に移行するのを妨げているのが、公益目的事業比率50パーセントの原則、収支相償の原則、及び遊休財産額の保有の制限である。公益目的事業比率については、一般管理費を公益事業費と別扱いにするのではなく、公益事業費と収益事業費プラス共益事業費との比率に按分して双方に算入すべきである。収支相償(公益事業による収入はその費用を超えてはならない)や、遊休財産保有の制限は、法令上厳格に過ぎて、公益活動の継続が困難である。現在は運用によってかなり緩和されているが、法令自体を改めるべきであろう。
それらの改正は、何年かのうちに行われることが望まれる。そして、移行のための無駄で煩雑な作業を行わなくても、実態に応じて、適切かつ簡素に移行もしくは新規認定が行われる実務が確立されることが期待される。国や都道府県の認定委員会事務局は、民の活力を公益活動に誘導しようとする法の精神をよく帯し、瑣末なあげ足取りをせず、実態を洞察して認定作業の補助に当たらなければならない。
なお、新公益法人の認定を避け、登記によって設立できる一般非営利法人に移行する法人も出てきている。その場合でも、共益事業や公益事業については、現行法並みの税制優遇措置が認められるので、事業が収益をあげるものでなく、かつ、寄付に依存していない法人については、一般非営利法人へ移行するのも一つの選択であろう。一般非営利法人について、準則主義(登記)による設立を認めたのは、制度として進歩である。大いに活用されると見込まれる。
((財)全日本社会教育連合会発行「社会教育」2009年6月号掲載)
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