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定期連載 挑戦−幸福づくり
更新日:2006年9月6日
助け合いの移送の自由を守ろう(その1)

   営利事業者が助け合い活動の是非を決める矛盾

  去る5月12日、改正道路運送法が成立し、10月1日に施行される予定である。
  この改正で、自家用車による福祉のための有償運送の登録が認められることになった。これまでは、通達で、白タク規制の例外として認めるという、いわば裏道だったのを、法律で登録制度を創設し、いわば表の道をつくったのだから、その意味では進歩といってもよい。
  しかしながら、この仕組みに対しては、法律上基本的な疑問がある。
  第一に、その地域で福祉有償運送をすることについて地域のタクシー事業者等が合意していない限り、登録を認めないことと定めていることである(同法79条の4・1項5号)。
  タクシー事業者は営利を目的とする者であるから、事業目的である利潤の確保のためには、競争相手となる福祉有償運送が存在しないことが好ましい。そのように、福祉有償運送の登録を認めるか否かについて、本質的に利害が対立する相手方当事者の合意を要件とするということは、利害関係者に登録拒否権を与えるのと実質的に同じ法的効果をもたらす。
  関係当事者の利害が対立する時は、中立である行政機関が、国民の利便を図る視点に立って、法の定める要件(この場合は、「一般旅客運送事業者によることが困難であり、かつ、地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するために必要であること」という要件)を満たしているか否かの認定をすべきであって、利害関係者の一方に実質上その認定権を与えるような仕組みは、法の下の平等に反し、全体の奉仕者たるべき公務員の憲法上の任務に違背するものである。
  運輸当局が憲法違反のそしりを免れる運用をするためには、たとえタクシー事業者が抵抗しようとすみやかに運営協議会を開催し、欠席の時は同意権の放棄として同意があったものとみなし、またタクシー事業者が出席して営業を守るため偏った主張をする時は、自ら先に引用した要件を認定してタクシー事業者を早々に説得するなど、運用において法の下の平等を実現し、国民の利便を守る必要がある。

    法の趣旨を超えた過剰規制は憲法違反

  第二に、改正道路運送法は、登録された福祉有償運送等の対価は「実費の範囲内であること」と定めている。
  しかしながら、同法は、基本的に、営利を目的とする事業を規制する事業者規制法である。その規制を合理化する理由は、営利事業者が利潤追求を安全の確保に優先することによって生じる危険防止である。同法が営利事業者を対象としていることは、たとえば一般旅客運送事業の許可について、同事業を「経営しようとする者」と言っていること(同法4条)や、一般乗合旅客自動車運送事業等の運賃又は料金認可の基準について、「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えない」という要件を定めていること(同法9条2項、9条の3・2項1号など)などに見られる。一方、幼稚園・保育園などの送迎バス、スクールバスなど、定時運行で多数の旅客を乗せ、反復継続して運転するバスであっても、無料の時は、道路運送法の規制は及ばない。ということは、同法は、反復継続して運転することの危険度に着目して規制するものでないということを意味する(自動車は本質的に反復継続運転を予定するものである)。再確認すると、同法は、反復継続運転を根拠とするものでなく、利潤追求が安全に優先しがちであるという危険性を根拠として、特別な規制をする法律なのである。
  同法は、自家用自動車の有償運送を禁止しているが、これは営利事業者に対する厳しい規制を免れるため、白タク行為により利潤を得ようとする者を規制しようとする趣旨に出るものである。法律における「有償」という言葉は、これまで、利潤を得なくても何らかの対価を受け取れば有償だと解されているが、これは、利潤を目的とする者が裁判などでとやかくの弁解をするのを封じるため広い解釈をしたものである。利潤を得る意思がまったくなく実費負担だけで助け合いのために運送するような事例が裁判にかけられた例は見当たらないから、必要性を超えて「有償」を広く解しても、社会的不都合は生じて来なかった。しかし、現在のように、助け合いのため実費程度の対価で自家用車を運送するボランティアが多数生まれ、それによって相当な社会的需要が満たされているような情勢になれば、「有償」の法解釈は、法の本来の趣旨に戻って解すべきである。
  そこで、先に述べた法の本来の趣旨に戻って考えると、福祉有償運送について登録制を採り、タクシー事業者に準じる程度の厳しい規制をするのは、それが、利潤追求する事業の場合に準ずるような対価を得て、組織的に福祉有償運送をする場合に限って合理性を得ることになる。対価が実費以下、特に人件費を含まないガソリン代程度で助け合いのために運送する場合には、およそ利潤的なものを得るために安全性を軽視するような動機で運送することはあり得ない。したがって、これを登録制にして一般の自家用車の運送以上に厳しく規制するのは、合理性がない。これを規制するのは過剰規制であって憲法違反である。

    実費以下の謝礼による助け合い運送は法の適用外

  以上に述べた道路運送法による規制の趣旨に照らせば、今回登録制を採って規制する福祉有償運送は、実費を超えてタクシー料金と同じかこれに準じる対価を収受する運送業に限定すべきであった。
  このような仕組みにすることによって初めて、同法が定める「一般旅客運送事業者によることが困難であること」という福祉有償運送の要件が正当なものとなる。つまり、許可を受け、厳格な規制に従って運送するタクシーを使えるときは、登録制で認められ、規制も若干緩やかな福祉運送は使えないというルールは、どちらも実質的に利潤追求の動機を持っており、危険が生じるリスクもおおむね同じであるときに正当化されるものである。福祉有償運送を行う者にそのような動機が皆無であり、もっぱら助け合いのために行う運送については、これに利潤追求のための運送を優先させるべき正当な理由は見出し難い。営利行為が自助(自分のための運転)又は共助(助け合いのための運送)の行為より重視されるという価値観はあり得ないのである。
  このように同法の趣旨を正しくとらえれば、実費程度以下の謝礼を伴う福祉有償運送は、それが明らかに実質的利潤追求のための基盤づくりとして行われているなど特別な事情が認められない限り、同法の規制からフリーであると解すべきこととなる。

(『さぁ、言おう』2006年9月号)
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