人のいやがることをしてはいけない。
総理の靖国神社参拝問題は、このルールを守るかどうかにつきるであろう。日本は、中国に攻め入り、中国人を殺した。
もし中国が、日本に攻め入り、日本人が殺されていたら、われわれは中国に対し、どのような感情を持っていたであろうか。そして、中国の現主席が、日本を侵略した最高責任者を祭る寺院に参拝したら、われわれはどう感じるであろうか。
私たちは、子どもたちに、「人の気持ちがわかる人間になろう」と教えている。だから、私たち自身も、人の気持ちをわかる努力をしなければならないだろう。
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私は、六月下旬、韓国と中国を訪問して、福祉の関係者と交流してきた。韓国各界のトップが集まって、時の問題を研究する韓国人間開発研究院でも講演したが、私の演題は、「日本社会の発展過程で検察(特捜部)が果たした役割」というものであったのに、講演後の質問は、総理の靖国神社参拝問題に集中した。その前日、小泉総理が訪韓して盧武鉉大統領と会談したのに、参拝をやめるとは言わなかったからである。
中国では、上海大学の学生への講演が中止になった。しかし、会った多くの福祉に携わる中国の人々から、靖国問題について意見を聞かされた。
彼らの心にぬぐい難く存在するのは、自分の国あるいは領土を占拠した日本に対する、複雑な感情である。親族や知り合いが犠牲となった人もいる。日本軍占拠の跡がいろいろな形で残っている。
「しかし、私たちは日本人に友好の気持ちも持っているし、経済発展の先導者として尊敬もしている」と、多くの人が語った。福祉施設でうちわに絵を書く作業をしていた老人は、「中日人民友好」と書き込んだうちわをくれた。
「実際にひどいことをしたのは、日本の兵士たちだ。しかし、私たちは日本の兵士を恨んだり、その子孫であり仲間である日本人を憎んだりはしない。彼らは望んでそうしたのでない、東条に命じられてそうしたと理解しているからだ」。ある中国人の学者は、そう言ってから、口調を変えた。
「本当は、自ら志願して攻めてきた兵士もたくさんいただろう。しかし、それを根に持っていては、日本との友好関係は築けない。だから、それは忘れることにした。その代わり、東条たち戦争を仕掛けた者については、しっかり責任を取ってもらう。それが日本と仲良くやっていくために絶対必要な条件だ。私の学生たちも、多くは私と同意見だ。中にはもう少し過激なのもいるけどね」
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私は、その少し前に発売された文藝春秋の7月号に、靖国参拝問題について、「ヒトラーと独軍兵士の墓に参って、兵士の方だけを拝んだと言っても、通用しないだろう」と書いたのだが、その通り、通用しなかった。
「せっかくわれわれが合祀されたA級戦犯だけに責任を絞って、その他のすべてを許し、前向きになろうとしているのに、どうして全部の恨みを思い出させるようなことをするのだろう」
そう語った親日派の学者は、本当に口惜しそうな表情だった。
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