更新日:2008年3月25日 |
税の使い道 総合的判断を |
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国や地方自治体の財政が借金まみれであることは、多くの国民が知っている。そういう状況の中で、福祉や医療などの分野で自己負担が増えるなど、厳しい生活に追い込まれる人が増えていることも、知っている。
「いよいよ消費税を上げるしかないのか」と覚悟する人も出てきた。
しかし、それをはっきり言う政治家は少ない。小泉さんほどの人でも言えなかったのは、「増税の前に無駄遣いを削れ」という要求に、反論するのが難しいからである。
では、どこまで無駄遣いを削れば、おおかたの国民が増税に応じるのか。
政務調査費で温泉旅行に出かけ、コンパニオンを呼んでドンチャン騒ぎをしたなどというのは論外である。この手の話はテレビが次から次へと掘り出してくるが、しっかり蛇口を閉める仕組みをつくって対応しなければならない。
問題は、それが無駄遣いかどうかについて国民の判断が分かれる大口の出費である。
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はからずも道路特定財源に関する議論がその問題を明示してくれたのであるが、ほとんどの地方自治体の首長やその支持者などは、地方の繁栄のために特定財源の堅持が必要だと主張する。これに対し、地方の道路にかかわりのない人たちは、一般財源化を主張する傾向が見られる。すると議論は「必要な道路はつくり、必要でないものはつくらない」という妥協案に進むのであるが、これは何の解決にもならない。不必要なものをつくらないのは当然のことだからである。
問題は、限られた収入を使う優先度にある。
これを図式化して言えば、政府の「道路整備中期計画」に基づき59兆円で道路をつくる必要度が、福祉や医療などの不足を補う必要度よりも強く感じられるならば、特定財源維持ということになる。道路に使うよりも一般財源に回し、福祉や医療などを充実した方がよいと感じるなら、一般財源化して、とりあえず様子を見るという方向を選ぶであろう。中には、道路も必要で特定財源OK、一般財源の不足を補うための増税もOKという人もいるかも知れないが、この選択肢は無視してよい。そういう人が少数だから、政治家は増税が言い出せないのである。
となると、国会で議論すべきは、道路と、一般財源が不足しているため国民がもっとも困っているものとの、優先度の比較である。道路だけを見て議論していてもことは解決しないし、「増税するならまず削るべきものを削れ」という、長年にわたって解決できないでいる課題への答えも出ない。
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ところが、政府も国会も政党もメディアも、そういう総合的判断ができない仕組みになっている。すべて、省庁の縦割りに対応した縦割りの組織になっているからである。道路(運輸・建設)問題を担当する組織は、福祉・医療や教育のそれとは人、権限、予算すべての点で別組織となっており、お互いに相手の視点を入れることは避ける。これが、総合的判断で優先度を決める作業ができない原因である。
それをするのは、官邸、党首討論(予算委員会)、(政党の)総務会、論説委員会議などであろうが、程度の差はあれ、総合機能が弱い。おおかたの国民が納得できるように「無駄遣いを削る」議論が熟さない原因は、そこにある。
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(信濃毎日新聞掲載/2008年3月17日) |
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