更新日:2012年5月23日
国民の選択とメッセージ
戦後に限って言えば、私は、日本の国民は常に選挙で正しい選択をしてきたと思っている。
戦後の、大多数が貧しかった時代にも、共産主義、社会主義の体制を選ばず、自由主義陣営を選び、長らく自民党に政治を委ねて、物の豊かさを追求してきた。1990年代に入り、物の豊かさが絶対的な魅力を失うと、政治は、いくつかの価値を調整する段階に入る。
そのバランスを取る手法として、国民は、二大政党制を選び、その担い手として、生産者側、旧価値に重きを置く自民党と、労働者・消費者側、新しい価値を開く(と期待された)民主党とを選んだ。
自民党は、郵政改革で輝きを放った後、国民の期待に応えられず、ついに国民は、民主党政権を選ぶ。「今は、改革して古い衣を捨てる時だよ。改革を続けられないなら、政権は委ねないよ。さあ、民主党さん、やってごらん」。それが、2009年衆院選で政権を交代させた時のメッセージである。
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しかし民主党は、未熟であった。それでも国民は、辛抱して待っていた。なのに、菅直人前総理の消費税10%発言がよくなかった。
「それが必要なことはわかっているよ」。国民の声をまとめれば、そういうことだろう。「わかっているけれど、あまりに手軽じゃないの。増税は、とてつもなくつらいんだよ。そのことをよくよくわかった上で、じっくり練って、もっと丁寧にわかるようにやってよ。それが政治でしょ」
そして、民主党に内省を促すため、ねじれ国会にした。「これで軽々しい政治はできないでしょ。もっとしっかり勉強しなさい」。それが10年参院選のメッセージであった。
ところが、である。国民が選挙の時予想していなかった一大事が起きた。東日本大震災、大津波、そして原発事故である。もう財政に「待った」はきかない。ついに野田政権は、政治生命をかけて消費税増税に挑むが、党内小沢一派が一大抵抗勢力である。国民が選択したねじれ国会が仇となるまことに困った事態となった。さて、どうすればよいか。
国民に正しい選択をしてもらうには、「増税に対する国民の協力を引き出す説得力ある説明と魅力ある政策」を打ち出せる政治家及びその政党が必要であるが、それは存在しない。
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となると、シナリオは三つ。第一は、今国会の攻防、あるいは秋の民主党代表選、自民党総裁選の過程で政局が動き、両党の有志が参集してそういう政党が生まれるというもの。第二は、ずるずると来夏に至り選挙となるが、国民は選びようがないから責任を全うする政権政党が生まれない。ついに市場がしびれを切らして国債が暴落し始める。そこであわてて政治はとりあえずの増税を決める。小康状態は得られるが、一向に前途は開けないというもの。第三は、とりあえずの増税すらできないまま、ついにコントロールのきかないインフレになって、国民の預貯金の価値がゼロに向かって落ちていくというもの。
願わくは、せめて第二のシナリオで止まってほしいが、残念なことにどのシナリオの道を進むかを決めるのは、今回は国民ではなくて政治である。そこが、限りなくはがゆく、そして心細いところである。
(信濃毎日新聞「月曜評論」2011年10月10日掲載)
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