政治・経済・社会
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定期連載 辛口時評
更新日:2006年1月11日
理念を失わないこと

  今年は難しい年になりそうである。世の中の流れが、迷走するように思われる。
  世界の情勢を見ると、冷戦終結後は、自由と民主の旗印を掲げたアメリカが、諸国をリードしてきた。諸国は、強大な軍事力を持つアメリカの、独善的でせっかちな方針に従わさせられるのは不愉快であったが、経済力でのけ者にされては困るし、それに、自由と民主という旗印には間違いがないので、程度の差はあれ、その方針に従ってきた。
  しかしながら、アメリカが仕掛けた戦争は、アフガニスタンもイラクも、残虐な独裁政権を倒すという目的は達成したものの、それぞれに相当な数の無辜(むこ)の民の生命を犠牲にしながら、それを償うだけの大きな成果は上げていないように思われる。つまり、両国の民は、同胞たちの死に値するだけの自由の喜びと経済的豊かさを入手するには至っておらず、テロや抗争による生命の危険にさらされる状態がなお続いているということである。
  そればかりか、アメリカ自身が、見えないテロの脅威におびえ、貴重な自由を制限している。
  これらの情勢から、自由と民主という旗印は、輝きを失い始めている。
  その間、中国やインドは着々と経済力を伸ばし、ロシアも徐々に回復してきている。アメリカの突出した経済力は、今後は相対的に力を失っていくばかりであろう。
  そういう中で、新しい秩序維持の仕組みをどう築くかをめぐり、諸国の複雑な綱引きが始まるであろう。それは混迷をもたらすに違いないが、大切なことは、理念を失わないことである。あるべき理念は、諸国の国民が納得するプロセスで、自由と民主を確保、実現していくということであろう。単純なアメリカ一辺倒は、危険である。
  国内的には、小泉さん退任後のかじ取りが難しい。バブル崩壊後は、世の中の流れは、改革であった。実際には、官僚と旧護送船団組の事業者や政治家たちが抵抗したため、改革のスピードは諸外国に比べてかなり遅かったが、その方向自体については国民的合意があった。
  ところが、ここへきて、国民もかなり改革疲れをしているように見受けられる。改革が上から進められているために、国民はその厳しさを十分には自覚しておらず、失業、企業再編、行政サービスの縮小、増税などに直面すると、ついたじろいでしまうのである。
  小泉さんが中途半端にぶっ壊した旧来の政官財の仕組みを、今後どのように改築していくのか。それを、今後二、三十年は負担が増える一方の少子高齢化の進展という事態の中で、進めなければならない。
  そのビジョンは示されず、問題点と負担増の方向だけが説かれている現状では、日本の針路は揺れるばかりであろう。
  大切なことは、ここでも、理念を失わないことである。市民が主体となって、すべての人がいきいきと力を発揮し、心豊かに暮らせる社会を築くという目標に向かって、着実に進みたいと思う。

(神奈川新聞「辛口時評」2006年1月9日掲載)
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