更新日:2010年9月2日 |
いきがいをケアの体系に |
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元気で長生きされている方は、多くの場合、何らかの役割を持っておられる。特に、その役割に感謝する人が周りにいる時、その方はお元気で、お年よりずっと若々しい。
人は、いくつになっても、どんな状態になっても、いきがいを持つことが重要なのだと思う。
「いきがいを、ケアの体系に組み入れたい」というのが、私の願いである。
介護保険のサービスは、自立を目指し、ADL(日常の生活活動)、QOL(生活の質)を高めることを目標としているから、「いきがい」を感得させることも、その中に当然含まれている筈である。
しかし、「いきがい」が人によって多様であるところから、ケアに体系的に組み入れられているとは言えず、優れたヘルパーが意識的に実践しているに過ぎない。12年に迎える介護保険制度及び医療保険制度の改正の機会に、体系化されることを望んでいる。
それは、すべての高齢者に充実した人生をもたらすだけでなく、いまだに適切なケアの方法が確立されていない認知症の人や精神障がい者に対し、これを開発する結果をもたらすであろう。
いきがいをケアの体系に組み入れるには、まず、ケアを受ける個々の人のいきがいが何かを引き出すことが必要である。それには、本人に語らせることが第一であり、ケアマネジャーにはその技術の訓練が求められる。しかし、心理的にそれが語れない人もいるし、認知症や精神障がいなどで語れない人もかなりいる。それらの人の日常行動からこれを引き出すこともできるが、有効なのは、その人の生活史からの把握である。
認知症についてのいわゆるセンター方式は、いきがいを引き出すのに活用できるが、好ましいのは、何らかのケアを必要とする状態に入ったころから、地域包括支援センターにおいて、その高齢者のケア及びいきがいに関する情報を集積していくことであろう。現在は、その種の情報が、診療所や病院、介護予防や生活支援の関係機関などにバラバラに死蔵されているだけである。これを地域包括支援センターで一括して集積していけば、その後のケアやいきがい、治療などにどれほど大きな力を発揮するか、計り知れない。
つぎに、本人のいきがいをどう実現するかである。
いきがいを引き出し、その実現プランを樹てるのは、ケアマネジャーであろう。それには報酬の点数を付ける必要がある。
いきがいの内容は、人により、また、その人の心身の状況によって千差万別であろうが、ひとことで言えば、自己存在の肯定(自己肯定感、自尊感情、自己実現感など)であろう。その要素は、自己の持つ能力の発揮であること、及び、それを人から認められ、肯定され、あるいは、誉められることである。つまり、子どもから高齢者まで、共通の要素である。
具体的な行動の内容は千差万別だとしても、その多くは、家族、友人、ご近所の仲間、あるいはケア関係者によって実現できるものであろう。
調理、買い物、接待、修理、剪定、栽培、パソコン、各種講話・指導(有識者向き)、習字(献立表など)、絵画、詩歌、歌唱、演奏、演劇、手品、各種手細工、身体を使った競技などは、気のきいた施設やデイケア、グループホームなどでは珍しくない。要介護者らが、自ら稼いだ地域通貨で花札賭博に興じているデイケアもある。
周囲の方々で実現できなくても、近年は各地域にさまざまな活動をするNPO団体、ボランティア団体が生まれている。ケアマネジャーは、ここにつなげばよい。
すでに多くのNPOやボランティア団体が、体系化される前から、いきがいの確保に動いているのである。 |
(電気新聞「ウェーブ」2010年8月18日掲載) |
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