更新日:2006年5月11日 |
市民後見NPOをつくろう
|
|
介護保険制度と車の両輪を成すというふれこみで始まった成年後見制度だが、利用状況はかんばしくない。日本人の自己責任感覚欠如もあるが、制度としての大きなネックとして、安心して頼める相手を見つけるのが難しいということがある。
もう一つのネックは、お金である。後見人に月何万かを払うのはもったいないと感じる人が多数派である。ところがそういう人が住宅だけは所有していて、これをうまく使えばその人並みの暮らしを全うできるのに、しないまま施設で亡くなってしまう。
では、後見人がつけば安心かというと、そうはいかない。成年後見人の八割は家族であり、そのうち最も多いのが子どもである。では、子どもだからといって安心かというと、親の財産については親と子は利益相反の関係にある。遺産を多くするために、親にその財産を使わせない子どもの例は、珍しくない。一般論として、相続権を有する家族は、後見人としては望ましくないと言えよう。
ここに提示したような諸問題を一挙に解決し、成年後見制度を普及するための方策として、私は、市民後見人とリーガルアドバイザーから成る市民後見NPOを、地域包括支援センターに対応して全国に設立しようと提言している。
市民後見人というのは、この分野で現在もっとも熱心な成年後見センター・リーガルサポート(司法書士のグループ)が言い出した言葉を一般化したものであるが、要するに、財産管理と身上監護について基礎的知識を身につけた市民で、原則ボランティアとして後見事務を行う人のことである。東京都をはじめとするいくつかの地方自治体や、前記リーガルサポート、私が代表を務める高齢社会NGO連携協議会などの民間団体がその育成に乗り出している。後見事務といっても、地域福祉権利擁護事業で行う程度の日常の財産管理事務が主たるもので、それは、少し極端にいえば、自分の財産の管理ができる人は、できる事務である。だから、市民後見人がこれを担当すればよい。それら市民後見人が数人集まって、市民後見NPOを設立し、個人としてではなく、このNPOが法人後見人となるのである。
ただ、時に面倒な法的知識や身上監護の知識を必要とする事態が生じる。そこで、ボランティア精神をもって法的アドバイスをする人を、弁護士、司法書士、税理士、公証人OB、法務局職員OB、信託業務従事者OBなどから募り、市民後見NPOのアドバイザーとなってもらう。身上監護のアドバイスは、被後見人のケアマネジャーが務めるであろう。
今年の4月からスタートする地域包括支援センターは、3万人に1つを目処に設立されるが、これが権利擁護事業も担うこととされている。だから、市民後見NPOは、望むらくは、地域包括支援センターに対応して一つずつ全国に設立され、このセンターと連携して後見の責務を果たすことができれば、理想的である。
ボランティアといっても、報酬を払える被後見人からはこれを頂くのが当然だし、たとえ無報酬であっても、人ひとり、その人生の最後の安心を創り出す幸せは、金銭的報酬に代え難いものがあるであろう。
この高齢時代、法曹OBが、まずは自分の生きがいのために、一肌二肌脱がれんことを期待している。
|
民事法情報N0.235掲載/2006年4月10日発行
|
|