政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2010年7月9日
「国民のレベル」
 戦後、つまり日本が民主主義国家になって以降、日本国民は、選挙で間違った判断をしたことがない。各政党がしっかりした政策を示していないにもかかわらず、乏しい材料から正しい判断をしてきた。
 先の総選挙で、政権交代の道を選んだのは、消去法で正解を導いた結果であるし、今回の参議院議員選挙の前に、世論調査で、鳩山・小沢両氏を退陣に追い込んだのも、国民が政治をリードしたためと言えよう。
 国民は、政治家の絶対的資格として、政治家が無私の立場で国民のための政策を遂行するかどうかを注視している。政治とカネの問題に極端に潔癖なのは、そのためである。特に多くの政治家が政策の基本を示さない日本においては、その政治家が国民のために政治を行う人物かどうかは、特定の利益集団と結び付いていないかどうかという基準で判断するほかない。国民が小沢氏の幹事長退任を鳩山総理退陣以上に評価したのは、その視点からであろう。とすれば、ことは小沢氏だけの問題ではない。国民の感覚を甘く見てはいけない。
 政治とカネの問題をクリアしたうえで、国民が求めているのは、国民のために何をやってくれるかという政策の内容である。
 それは、決して甘やかしではない。国民が利益分配を求めたのは国の体制が決まって、経済成長が続いた過去の時代である。いま国民が求めているのは、不安の除去である。強い経済、強い財政、強い社会保障でなくてもよい、確かな経済、確かな財源、確かな社会保障がほしいのである。ここ十数年、弱まる一方の経済、倒れそうな財政、先の見えない社会保障と、深まる闇の中をさ迷ってきたからである。
 国民は、小泉元総理以降、政治家の言葉を容易には信じなくなっており、選挙目当ての無責任なマニフェストの提言は直感的に見破り、マイナス評価する。その点、経済・財政・社会保障の三点セットは、不安除去の方向を示したもので、項目としては適切であるが、国民が見ているのは、それを実現するための戦略である。友愛という理念は良いが、戦略が皆無な総理大臣に失望させられたばかりであるから、目は厳しい。
 経済を確かなものにするには、中国、インドや発展途上の国々の市場を開拓することを最重点の政策にすべきであろう。巨大な潜在需要があり、これを満たす商品の提供は相手国の人々を幸せにする。少子化の道をたどり、物的に飽和状態にある先進諸国の市場でせめぎ合うだけでは、強くなるはずがない。
 財政は、増税である。それしかないことは、良識ある国民、つまり投票に行くような国民の多くはもうわかっている。ただ、それはまさに身を切られる思いであるから、もうこれ以上無駄はないのかについては実に疑り深い目で見ているし、それ以上に、増税に応じたら、間違いなく安定した生活が実現することを保証する確実な計画が示されるのを待っている。
 それが、社会保障計画であるが、これが出来ていないのが大問題である。今頃になって、超党派の検討会を作ろうと呼びかけるのでは、手遅れもよいところである。早々に負担と給付の関係を将来にわたって具体的に示す選択肢を提示して、国民的合意を得る運動を開始すべきであろう。それが国民の不安を除去する唯一の方法である。
 国民は賢い。正確に、かつ具体的に選択肢を示して判断を求めれば、必要な負担増には応じるし、また、経済的負担に代えて自ら汗を流すことも、自らの欲求を抑えることもする。それは、介護保険における負担と給付のあり方の選択の例で証明されている。
 政治は国民のレベルに追いつかなければならない。

(電気新聞「ウェーブ」2010年6月23日掲載)

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