「子どもは親の敵である」と言うと、たいていの人はびっくりする。
しかし、親が呆けてくると、何とか親の財産を自分の方に持って来ようとするのが、むしろ子どもの普通の姿である。
「子どもは、もちろん親が好きだ。ただ、親より自分の方が好きなだけだ」と私は説明している。
そのために、自分が長年貯めてきた財産を使わせてもらえず、お金のあまりかからない施設に入れられたりしている。
そういうことにならないように、成年後見制度がつくられた。ところが、150万人の認知症のうち、成年後見人が付いているのは5万人に過ぎず、しかも、その8割は、子どもを中心とする家族なのである。
それも日本では無理はない。自分の財産を最後までしっかり管理しようという意識に乏しいところへもってきて、引き受け手がいない。弁護士などのプロは、月何千円、何万円程度の報酬で(払う方からすればそれでも結構高いのだが)ややこしくて手間のかかる仕事を引き受けたがらないし、一般の市民からすれば、第三者の財産管理など、いつトラブルに巻き込まれるかも知れず、面倒なことはご免であると思うであろう。
しかし、このままでは、認知症になった人は、善良でやさしい家族に恵まれない限り、己の財産を己のために使えないまま人生を閉じることになる。
そこで、私が樋口恵子さんと共に代表を務めている高齢社会NGO連携協議会では、市民後見人の養成に乗り出すことにした。中心になっているのはシニアルネサンス財団の河合和事務局長である。うれしいことにいくつかの地方自治体をはじめ、司法書士の団体やNPOなども、その養成に取り組みはじめている。
この4月から3万人に1か所の見当で新設される地域包括支援センターも、成年後見人と連携することとされている。私の構想は、各センターごとに一つの成年後見NPOをつくり、NPO自体が成年後見人となる。そして、NPOに数名のボランタリィな市民後見人がいて、財産の管理やケアマネジャーへの指示を行う。各NPOに一人法律家がボランタリィに付いていて、ややこしい問題が起きた際には対応するというものである。企業OBなどは、進んで市民後見人の養成講座を受け、できれば地元のNPO立ち上げまで頑張ってほしい。いい人生を送れるだろう。
そして、司法書士、税理士などの現職のほか、公証人OB、法務局職員OBなども、地元のために一肌脱いでほしいと願っている。人生最後の御奉公は、天国への道を開くであろう。
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