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定期連載 挑戦−幸福づくり
更新日:2009年5月9日

宅老所を不当に規制するな

 群馬県の「静養ホームたまゆら」の火災で高齢者10人が死亡した事故は痛ましい。その3日後に、インストラクターの西田京子さんが座長を務める「宅老所を全国に広める会」が、「この事故を機に、宅老所に対して有料老人ホームの届け出をせよとの指導が強化される可能性があるが、宅老所は、静養ホームたまゆらとは決定的に違うから、これを拒否する」との声明を出した。迅速的確な処置である。
 違う理由は、要するに、静養ホームたまゆらは約30人が居宅として住む入居施設であるが、宅老所はデイサービスが主体で、そのうち数人のお泊まりがある家庭の延長の空間だというのである。
 宅老所が有料老人ホームだとすると、その届け出をしなければ罰則がかかるし、帳簿作成・保存義務や情報開示義務などが生じるほか、知事の改善命令に従う義務が生じる。この命令がくせもので、国は、入居者の保護を錦の御旗として、建物の構造やスプリンクラーの設置などさまざまな基準を設け、これに反すると知事の命令が出る運用になっている。宅老所が届け出を嫌がるのは、基準に従うと本来のデイサービスの機能が果たせなくなり、そのような有害無益なことに貴重なお金を使いたくないからである。一方、有料老人ホームになるメリットは、宅老所にはない。
 ことの起こりは、2006年における老人福祉法の改正である。それまで有料老人ホームは、同法29条で「常時10人以上の老人を入所させ、食事の提供(中略)を目的とする施設」と定義されていたのを、「老人を入居させ、介護等の供与をする事業を行う施設」と改めた。これであると、1人でも入居させれば該当するように読める。現にかなりの県がそのように解釈して、宅老所に届け出を迫るようになった。
 たしかにグループホームのように、10人未満ではあるが、入居させて介護等を供与する事業を行う施設もある。
 しかし、宅老所は違う。昼間の居場所として場所を提供し、お世話もする家庭的な施設で、ただ、預かった高齢者の宿泊を頼まれれば泊めることもあるというのがその原型である。ただ、高齢者の中には家族が面倒を見られないという方もあり、宅老所に泊まりっぱなしという人も出てくる。
 形式論をいえば、法律は「入居させ」と定めているのだから、少なくとも居所を宅老所に移していることが要件となる。したがって、住民登録が実家ないし子どもの家にあり、郵便その他の連絡もそちらに行くなど、宅老所での宿泊が外泊に過ぎないと認められるときは、たとえ連絡して泊まっていても、長期出張と同じで、居所を移した(入居した)とは認められない。また、「入居させ、介護等の供与をする事業を行う施設」という定義であるが、宅老所はデイサービスを提供する施設であって、入居させる施設ではない。
 問題は、実質論にあるので、たとえ居所を移したと認められる場合であっても、たとえば、物置部屋を設置して知り合いの子を下宿させるケースのように、家族と同内容のリスクを前提に宿泊させている場合には、事業者に負わせるようなリスク回避義務を課すのは、実態として不相当である。
 このように、対価を得ていても、サービスが家族に対してサービスする場合のように、営利目的でも事業維持目的でもなく、共助を目的として提供される場合には、事業規制は働かないと解すべきである。このように解すべき事例は、移送サービス、配食サービスなど、家族間では無償で行われるサービスについて、例が多い。
 これらのサービスに対し、事業として行われるサービスに対する規制を、形式的に課する行為は、現代社会に広めるべき共助を不当に萎縮させるものであって、弊害が大きい。佐賀県知事が宅老所に対する規制をしない方針を決めたのは、まさに時代の要請に沿う柔軟な態度であって、他の知事もこれを鑑とすべきである。

(『さぁ、言おう』2009年5月号)

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2009年4月9日 ひとり生活応援プラン
2009年3月9日 いきいきと存続する組織
2009年2月9日 ネットワークのつくり方
2009年1月9日 介護現場の混乱と私たちの進む方向
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