更新日:2009年8月10日
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宅老所規制への対応
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本誌5月号の巻頭言「宅老所を不当に規制するな」が公けにされた後、厚生労働省老健局振興課長は、5月28日付けで、都道府県の担当局に対し、「未届の有料老入ホームの届出促進及び指導等の徹底について」と題する文書を発した。群馬県のたまゆら火災事故に起因する指導措置の一環である。
その文書に添付されたQ&Aに、「デイサービスに連続して行われる自主的な宿泊サービスは、有料老人ホームに該当するのか」との問いがあり、その答え(後段)は「上記のように(注・「問いにあるように」の意味)宿泊を伴うものであっても、実態把握の上、『入居』とは言えないものについては、有料老人ホームには当たらない。」となっている。
宅老所の運営者は、指導に来た地方自治体の職員に対し、この回答を示して、「入居と言え
ない実態」を説明することとなる。
実態の説明は、実情を示すのが一番である。ただ、5月号巻頭言に書いたように、「住民登
録が実家ないし子どもの家にあり、郵便その他の連絡もそちらに行くなど、宅老所での宿泊が
外泊に過ぎないと認められるときは、たとえ連続して泊まっていても、長期出張と同じ」で、
「入居」ではない。だから、宅老所の実態だけでなく、実家ないし子どもの家の情況も説明する必要がある。
住民票については、06年6月20日厚労省老健局の担当者会議資料Q&Aの回答に「住民票を
移す行為までは必要とせず、入居契約を行い、居住の拠点を移していれば、老人を居住させて
いるものと取り扱って差し支えない。」とある。
この回答は、住民票の有無が居住の拠点を決める基準になるわけではないと言っているに過ぎない。住民票がなくても、その場所で衣、食、休、楽、寝など日常生活が営まれ、そこが外部からの連絡場所となるなど、日常生活の拠点となっていれば、その場所が居住の拠点と認定される。一方、ある場所に住民登録をしていることは、その場所を居住の拠点とする本人の意思表示であるから、住民票があることは、それがある場所を居住の拠点と推定する重要な情況証拠となる。つまり、住民票を移す行為、あるいは移していない行為は、基準(決定要素)とはならないが、大きな認定要素となるのである。そのことを行政職員にしっかり説明する必要が
ある。
このような「居住の拠点」の説明よりも大切なのは、「有料老人ホーム」の認定のもたらす弊害の説明である。
居住施設については、個室化や居室のスペースの確保、車椅子による移動に支障をきたさない廊下の面積の確保などが必要であり、これを指導する合理性がある。しかし、宅老所は寄り合いを目的とする施設であり、そこではスペースのある居室や広い廊下などはむしろ共生(寄
り合い)を妨げる構造となる。寄り合いの延長としての宿泊は、むしろ親しい者同士が家族のように寄り添って寝ることが好ましく、そこに居住に適した構造を持ち込むのは、昼間の寄り合いのための構造を破壊し、夜の宿泊のあり方に対しても過剰な(合理性のない)要求をすることとなる。
行政は、住民があみ出した快適な宅老所を、誤った法の解釈で毀してはならない。それは法
に名を借りた違法、有害な指導である。
そのことを、宅老所の実態を示しながら、しつかり行政職員に理解させることが決め手となる。
なお、有料老人ホームとなれば、スプリンクラーの設置について補助が出る可能性がある。その利便と、不当な改善命令を受けるおそれとを冷静に見極めて判断する必要があろう。 |
(『さぁ、言おう』2009年8月号)
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