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定期連載
更新日:2006年2月2日
公益事業・営利事業の区別
  身体の不自由な高齢者を車で病院などに運ぶ活動をしているNPO団体は、少なくない。その際、ガソリン代などの実費を頂くと、タクシー業になるのだろうか。
身体の不自由な高齢者の家に行って、家事をやり、一時間数百円の謝礼を頂くのは、家政婦業か。あるいは、そのお家に食事を届けて実費代を頂けば、飲食業か。
  やっているNPO団体は、ボランティア精神でやっており、利益を得るつもりはない。現にその事業は、ボランティアが参加してやってくれるから成り立っている。寄付金や補助金をもらって成り立つ事業も少なくない。
  しかし、営利事業者からすれば、そういう事業の存在は面白くない。そこで、監督官庁に、あの活動は法律違反だから取り締まれと文句を言うことになる。監督官庁は基本的に営利事業者の味方だし、法律を形式的に読めば違反とも解せるから、取り締まりに乗り出す場合が少なくない。
  こういうせめぎ合いはボランティア活動やNPO活動が盛んになってくるにつれ、いろいろな場面で起きている。
  もともと法律が、ボランティア活動の存在をまったく想定していないというところに基本的な問題があるが、その奥には、営利事業(市場活動)は、利益を目的としない民間の公益事業(「一般人のための非営利の事業」という広い意味)に優先するのか、営利事業は人間の活動のうちどれだけをカバーするのかという問題がある。
  昨年暮れに内閣官房の行革推進事務局は、「公益法人制度改革(新制度の概要)」と題する政府案の骨子を公開し、意見を公募したが、その中に「公益的事業として営利企業と競合する性質を有する事業活動等を行わないこと」という一文があった。
  この考え方によれば、先にあげたような高齢者のための事業はもちろん、介護保険制度で非営利法人がやっている介護事業も、営利で在宅介護サービスを提供している事業と競合する性質を有するから、公益事業としてやれないことになる。極端なことを言えば、教育事業も、営利事業である塾が、学校と同種の形でやり出せば、公益事業としてやってはならないという解釈になる。
  現に政府は、営利事業と競合する性質の公共事業を各種行っているのだから、この政府案の考え方は明らかにおかしいのであるが、それでは営利事業と公益事業の領域を何で区別すればよいのか。
  ボランティアやNPOが行う事業を含めて、公益事業が形の上で営利事業と同じ事業を行うのは当然であるが、両者が現実に競合して行われ、公衆が営利事業によってニーズを満たされる時は、公益事業は必要がない。しかし、営利事業の利用が難しい人々がいて、その人々がそのサービスを必要とする時は、公益事業としてやるほかない。NPO団体等は、そういうニーズがあるからこそ、市場価格よりずっと安い謝礼でサービスを提供しているのであり、実質的には、競合がない。
  その区別は、事業の性質ではつけられず、その事業がボランタリーな労力提供や寄付などを得てはじめて成り立っているか否かにより区別するしかないと考える。ボランタリーな参加や寄付は、実情を知る市民がその事業の公益性(非営利でやる必要性)を肯定していることを示すものだからである。
(信濃毎日新聞掲載/2006年1月30日)
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