更新日:2006年9月20日 |
行政の過剰規制は廃止を |
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世の中を変えるというのは難しい。小泉さんは「官から民へ」という旗印で相当頑張ったが、霞が関の官僚たちも簡単には権限を手放さない。
最近驚いたのは、国土交通省所管の道路運送法の改正である。
実情を言えば、ここ10年ほどの間に、身体の不自由な高齢者などの通院や買い物のための外出支援を、車で行う必要性が格段に高まった。また、農村部の過疎化が進み、そこに住む高齢者などの移動を車で支援する必要性も高くなっている。しかし、そういった人々の中には、タクシーが利用できない人も多い。そこで見かねた近隣の人やボランティア団体などが、自家用車で外出を支援するようになった。その場合、まったくのタダだと、支援してもらう方も心苦しく、頼みづらいというので、ガソリン代などの実費や謝礼金を払うやり方が、自然に広まった。
ところが、このように対価をもらう行為は、白タク営業として道路運送法違反になるという声が、タクシー業者などから上がった。といって、彼らがそういう高齢者たちの外出支援をしてくれるわけではない。
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そこで私たちは、国土交通省に対し、自家用車による福祉運送や過疎地での運送を正面から認める法改正を要望していたのであるが、これに応じたのが今回の改正である。
だからいい改正かというと、問題はその中身であって、自家用車による福祉運送などを行える要件が、ぎりぎりと絞られている。その運送をするにあたっては、地元のタクシー業者などの合意がなければできないし、合意を得て登録するとなると、運送管理者や自動車整備の責任者を置き、管理しなければならない。そして、責任者は、運転する人にその都度面接して、状態を確かめなければならない、などなど。
そんなことは、「困った時はお互いさま」の精神で助け合っている団体にできるはずもない。会員の誰かが「ちょっと助けて」と言った時に、「よし、私がやろう」という会員を探し、あとは両者間で助け合いが行われるのだから、その活動を管理統制する仕組みなどないし、必要ないのである。
そういう活動は、改正前の道路運送法の下でも行われ、発展してきているのに、福祉運送を認めようという改正で、認める要件を絞り込んでこれを排除しようとするのは、本末転倒もはなはだしい。
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根本にさかのぼれば、営利目的で運送業を営む事業者は、利潤追求のため無理な運転をさせるおそれがあるというので、道路運送法は、一般の運転者に対するよりも厳しい規制をしているのである。しかし、助け合いのためのボランティアは、実費代程度の弁償は受けるにしても、利益はまったく得ないのであるから、そのために無理な運転をするおそれは皆無であるし、現に、慎重運転に徹している。そういう助け合い(共生・共助)の活動を、本来営利事業を規制するための法律で規制しようというのがおかしい。行政による不当、過剰な規制というほかない。今回新設の登録制度は、実質的に営利事業に準じるような形態の運送事業に限って適用すべきものであろう。
この種の過剰規制は、ほかの分野でも残っている。新しい施政者は、非営利活動についても有害な規制の廃止に努め、市民の活力を生かすべきであろう。
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(信濃毎日新聞掲載/2006年9月18日) |
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