政治・経済・社会
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定期連載
更新日:2008年7月1日
格差社会の非営利活動
  格差が日本社会を壊そうとしている。「負け組」の意識が、若者や中年の意欲と誇りを奪っている。
  格差は、グローバルスタンダードに伴って、世界中に広がった。その原因は、ソ連邦の崩壊によって、資本主義が抑制力を失ったことにある。資本主義国を倒そうとする共産主義国が強力に存在していた時代には、資本主義国は、革命を恐れて、労働者や経済的弱者の不満の爆発を防ぐための支援策(セーフティーネット)を、さまざまに講じていた。
  しかし、冷戦が終結すると、資本は自制力を失い、政治を巻き込んで、露骨に利潤追求に走り出した。格差が広がるのは、必然的現象だといえよう。
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  資本の自由な活動は、基本的には、市民に利益をもたらす。競争に勝つため、市民生活に便利な新しい製品が次々と開発され、多様なモノやサービスが安く提供される。構造改革は、資本の自由な活動を妨げる古い障壁を除去するため、なお進めなければならない。
  一方で資本の自由な活動は、市民に不利益ももたらす。一つには、独占や先行投資による不当な価格の上昇があるが、もう一つ大きいのは、労働者の切り捨てや不当な低賃金労働である。ここから社会を崩壊させる格差が発生する。
  では、資本の行き過ぎた利潤追求活動を抑制する力は、何か。
  平等を理念とする共産主義は、資本に対抗する力を失った。平等は、自由と違って、進歩する活力を生み出さないことが、共産主義諸国によって証明されたからである。
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  では、何が新しい抑制力になるのか。私は、市民が行う非営利活動だと考える。
  資本主義は、人が徹底して利己的に行動することを前提にして成り立っているが、人間が持つのは利己心だけではない。仲間と楽しみ、助け合う心(共益を求める心)も持っているし、社会に貢献したいという利他の心(公共心)も持っている。そういう心に基づき、利益を求めず、他者に幸せをもたらすことを目的として行う市民の非営利活動は、利益追求に徹する資本の活動に対するアンチ・テーゼとなる。
  教育、学習、文化、医療、介護、福祉など、人々の尊厳ある暮らしを実現するために行うサービスは、資力のいかんを問わず、全ての人に対し、きめ細かく提供されるべき基礎的なものであるから、市民による非営利活動によって提供することを原則にすべきである。そして、これらのサービスを受ける人々のレベルは千差万別であるから、サービスを提供する者の能力も多種多様である必要がある。したがって、資本に使われる労働者と異なり、人間の持つ多様な能力がここで活用される。しかも、個々の人を対象にするサービスであるから、効率化には限界があり、数多くの従事者を必要とする。
  加えて、これらのサービスは提供者にいきがいを生み出す魅力を備えているから、資本が求める優秀な人材も、お金の誘惑を振り切ってこの分野を選ぶ可能性がある。
  格差による敗北感を払拭(ふっしょく)し、多様な能力を生かす職場を創出するため、政治は、非営利活動の力を評価し、その充実に努めることが望まれる。
(信濃毎日新聞掲載/2008年6月23日)
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