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定期連載
更新日:2012年9月20日

社会保障 積み残された課題

 消費税の増税によって行う社会保障の一体改革の内容は、政府は決めている。ただこれについて野党は同意しておらず、あらためて国民会議を開いて決めることになっている。
 社会保障改革の内容は四つの分野に分かれており、そのうちの子育て関係については、先の国会で法案が通った。不十分ながらも幼保一元化が進められるなど、改革が進められることになった。子育ての社会化により、子どもの人間力(自助と共助の力)を育成する環境を整えたいという視点からすれば、改革の内容は中途半端で、目指す方向についての合意も未確定だという不満はあるが、とにもかくにも改革に着手したことは評価できる。
 高齢者、障がい者に関する三つの分野のうち、介護については目指す方向は早くから決まっており、その方向に向けた改革が着実に進められている。「最期まで住みなれた地域で暮らせるケア」であり、これによって自宅でその人らしく暮らし、その尊厳を確保しようというのである。すでに2003年に地域包括ケアという言葉で政策の目標が示され、昨年には24時間いつでも必要な時にヘルパーさんや看護師が自宅を訪問するという仕組み(定期巡回随時対応型訪問介護看護)も実現した。長野県でも四つの自治体で実施予定である。
 この方向は国民に支持されており、あらためて協議する必要はない。
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 医療の分野は、政府案は未熟である。救急体制の不備、小児科医の不足など問題点は列挙されているが、目指す方向が定かでない。
 目指すべきは、尊厳ある暮らしを実現するための在宅医療の飛躍的充実であり、そのため、在宅診療でたいていの病気に対応でき、必要なときには的確に専門医につなぐ能力を持つ総合診療医の創設と配置に重点が置かれなければならない。
 しかし、病院志向、専門医志向の医師たちを説得できず、政府案はその方向性を明確に打ち出せていない。これを支える後期高齢者医療制度についても、政府は廃止を言いながら、現制度より優れた案を考案できていない。医療制度の持続性や高齢者の自立を考えるならば、これまでの中途半端な改正をもとに戻し、創設時の後期高齢者医療制度にして、負担が実質的に厳しい高齢者にはセーフティネット(安全網)の面から配慮するのが正解であろう。これ以上に優れた案は、これまで出ていない。
 あるべき医療制度について、大局的見地に立って、国民にわかるように協議してほしい。
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 年金制度についてはまだ何も決められていない状態と言えよう。多くの若者が制度の合理性(若者の負担が不当に重い)や継続性(自分たちのころは年金がもらえなくなる)に深刻な疑問を持っており、これに答える案が出ていない。負担の公平や持続性を言うなら積立方式(自分の分は自分で積み立てる)がよいが、賦課方式(現役層が払う分で今の高齢者に支給する)でやってきているのを積立方式に切換えるのは難しい(今の高齢者に支給する原資がなくなる)。
 ではどうするか。年金問題を年金制度の仕組みだけで解決するのは困難だと思う。幅広い国民的議論が必要な、難しい分野である。

(信濃毎日新聞「月曜評論」2012年9月17日掲載)

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