更新日:2006年7月4日 |
「共謀罪」の議論急げ |
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国際交流が盛んになるにつれ、国際犯罪も増える。私が法務省で国際犯罪を担当していた30年前から、その取り締まりは各国の課題であった。
当時は、麻薬と覚せい剤の密輸撲滅が先進国共通の願いで、それに加えてアメリカが、汚職などの腐敗行為の国際取り締まりに熱心であった。その後のめざましい国際化の進展に伴い、国際的組織犯罪集団は、銃器や禁制品の密輸、人身売買、誘拐、殺人請負、窃盗、地下銀行、マネーロンダリング、サイバー犯罪などとその領域を広げ、政治的テロを狙う高度な専門的犯罪集団も生まれた。
大がかりな国際犯罪から国民を守るため、諸国は会議を重ね、やっと合意に達して出来上がったのが国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約である。日本の各党もこの条約に賛成し、2003年国会で承認された。
ところが、この条約を批准するために必要な国内法をつくるにあたって、日本はつまずいた。原因は、共謀罪にある。
共謀罪とは、犯罪の実行を共謀する罪であって、アメリカ連邦法では、共謀に加えて、これを外部的、客観的に表す明白な行為(Overt Act)がなければ罪は成立しない規定になっている。
ところが、政府は、国内法案をつくる際、この明白な行為という要件を付さなかった。これがつまずきのもとであって、「相談しただけで罰せられる。そんな法律をつくられたら大変だ」との反発を一斉に引き起こした。
民主党の対案では、明白な行為に代えて「予備行為」をするという要件を加えていた。
世間の反発を見て、政府は少しずつ妥協し、ついに国会の終盤に至って、民主党案を丸のみにすると言った。民主党案は、共謀の内容を、組織的犯罪集団の関与する国際的な重大犯罪の実行に絞っていたから、一般市民がそんな共謀をするはずもなく、不当な処罰のおそれはないものであった。
この条約はすでに120以上の国が批准しており、諸国が悪質・多様になっている国際犯罪に足並みをそろえて取り組むためには、日本は遅れ過ぎた批准を急ぐ必要がある。現状のままでは、重大な国際犯罪の共謀罪に問われて日本に逃げ込んだ犯人を、日本は逮捕することも外国に引き渡すこともできないのである。
しかし、民主党は、世間の危惧(きぐ)を取り除いた点で優れている自分たちの対案が成立することとなったのに、これを拒否した。それでは何のための対案だったのか、無責任だというほかない。拒否の理由は、政府(外務省)が、民主党案では条約の要件を満たさないと言っているからというのであるが、それならその点を詰めた対案にすべきであった。それにこの条約は、国内法に寛容で、批准することも十分可能だと考えられる。信念をもって対案を貫いてほしかった。
かくなる上は、与党、民主党協議の上、条約の文言に忠実な法案を新たに作成して早々に成立させるのが、国民を守る政党の義務だと考える。
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(神奈川新聞「辛口時評」2006年6月19日掲載) |
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