政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2007年4月17日

任意後見の抜け穴を塞ごう

  認知症の人々を法の暗黒領域から救い出すために発足した成年後見制度であるが、それが新たに認知症の人々から財産を侵奪する手段に使われ始めている。
  特に問題なのが、任意後見契約と同時に締結される包括的任意代理契約(財産管理委任契約)である。この包括的任意代理契約に基づいて、ひどい場合にはまだ判断能力が十分なうちから、本人の信頼につけ込んでその財産を私し、判断能力が不十分となった後も任意後見監督人の選任を申し立てず、任意後見契約を眠らせたまま、包括的代理権を乱用して横領行為を重ねる者たちがいる。集団でそういう悪質な行為をするという仲間内の情報は、多方面から入るが、本人が認知症を発症して被害を確信できない状況では、摘発はなかなか困難である。
  何のことはない、成年後見制度発足以前の無法状態が、この制度の発足で解消できるどころか、逆に広がったようなものである。
  任意後見契約は登記されるものの、本人の判断能力が不十分となり、任意後見受任者らの請求によって家庭裁判所が任意後見監督人を選任するまでの間は、契約の効力は生じない。この空白の期間を穴埋めするために、任意後見契約と同時に、民法に基づいて、任意代理契約を任意後見の受任者と本人が結ぶ実務が生まれた。これが不誠実な受任者によって悪用されるのである。本人は受任者を信頼してすべてを委ねている認知症予備状態の高齢の財産家である。そして、監督する者は誰もいない。これほど危険な状態はない。
  司法書士による成年後見センター・リーガルサポートは、乱用防止のため、@受任者に対し、本人の判断能力が不十分になった時に任意後見監督人の選任を請求する義務を課すること、A本人の意思能力喪失時に、任意代理権が消滅する旨の規定を設けることを、提言している。
  大きな前進ではあるが、味を占めた悪人らが任意代理契約だけを結ぶようになれば対応できないし、意思能力喪失時点では遅すぎる。
  問題の根源は包括的な任意代理契約にあるのであるから、これを法律で禁止するのが有効適切であろう。それは私的自治の侵害だという意見が予想されるが、私的自治が前提とするような独立した行為能力を持つ人が、自己の全財産の処分を他人に委ねてしまうような包括的任意代理契約を締結するであろうか。財産の全面管理が必要な場合として、民法は、旧禁治産制度、成年後見制度などを設けたが、それは、他人に全面的に管理を委ねるのはそういう特別な場合だと判断したからであろう。にもかかわらず、今日に至ってまだ行為能力が十分であるのに包括代理・委任契約を結ぶという不自然な事態になったのは、それが任意後見につながるからというだけの理由としか考えられない。
  しかし、その危険性は上述のとおりであるし、その社会的意義は存しない。本人に判断能力がある以上、包括的に他人に委ねるといった子どものような無責任な態度は社会的に容認すべきでない。
  現制度の下においても、公証人は、包括的契約を、見守り契約か、個別の代理・委任契約に変更させるよう説得することが望ましい。
  なお、死後の財産処理は、任意後見契約では認められず、別途任意代理契約を結ぶしかないこととされているのもおかしい。任意後見契約でも可能とするよう改めるべきである。
(「民事法情報」No.247(2007.4.10)掲載)
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2006年11月14日 「政治をよい方向へ」
2006年10月17日 官から民へ
2006年9月22日 「尊厳を支えるネットワーク」
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